1年越しの聖火リレー(上) 「平和と平等」の大会、次こそ 幻の五輪代表・津田桂さん(56)

2021年6月27日 07時42分

聖火リレーへの思いを語る津田さん=座間市で

 「今の感染状況を踏まえれば、中止はやむを得ないし、覚悟もできていた」。小学校非常勤講師の津田桂さん(56)=相模原市南区=は、公道での走行が中止となった県内の東京五輪聖火リレーを冷静に受け止める。
 新型コロナウイルスの影響で延期が決まってからの一年間は、聖火リレーに参加するか逡巡(しゅんじゅん)した。ワクチン接種がいち早く進んでいる国もあれば、感染拡大に歯止めがかかっていない国もある。「コロナの影響で出場したくても出られない選手もいるだろう。そんな状況で大会が開かれたとしても、平和と平等の象徴にならないのではないか」。五輪の理念に強い思いを持つのは、“幻の代表”だった自身の経験がある。
 高校一年だった一九八〇年、モスクワ五輪の体操女子代表に選ばれた。だが、当時のソ連のアフガニスタン侵攻への抗議として、日本は諸外国とともに不参加を決定。最高の舞台だと思っていた五輪への出場は「自分の努力とは関係ないところでなくなってしまった」。憧れは一気に冷めた。
 次のロサンゼルス五輪を目指すことなく、高校三年で競技生活に幕を下ろす。苦い記憶からか、引退後は五輪選手を心から応援することはできず、当時のチームメートと会っても五輪に触れることはなかった。
 東京五輪の誘致が決まった後の二〇一七年、一番親しかった仲間に会うと初めて五輪を話題にし、仲間も自分と同じ気持ちを胸に秘めていたことを知る。「ボイコットを経験した私たちだからこそできることがあるはず。政治的な介入もなく平和の象徴としての五輪の尊さを伝えたい」と聖火ランナーに手を挙げた。
 だが、四十年たってようやく前向きに迎えられるはずだった五輪は、コロナで一変していく。世界各国で猛威を振るう中での今大会は、自分が思う理想になっていないのではないか−。延期後、自問自答を続けた。「私が走らなかったとしても、大会が理想の姿になるわけではない。私が走ることで平和と平等の大切さを訴え、今後の大会での理想の実現につなげたい」と気持ちを整理した。
 五輪中止を求める声が高まり、県内の聖火リレーでも感染拡大を理由に辞退するランナーが相次いだ。「私もこの一年でいろいろな気持ちになったので、中止を求める人や辞退した人の心境はすごく理解できる。参加するのか、辞退するのか。どちらの判断が正解ということはなく、どちらも尊重され、認められてほしいと思う」(酒井翔平)
 ◇
 新型コロナ感染拡大で延期された聖火リレーが、二十八日から県内で始まる。大会開幕まで一カ月を切った今もコロナの収束は見通せず、歓迎ムードとはほど遠い状況だ。葛藤を抱きながら、一年越しの聖火リレーに臨むランナー二人に心境を聞いた。

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