交響曲 聴かせて醸す 山口の「獺祭」 仕込み専用に制作

2021年6月29日 07時27分

「獺祭」は海外でも人気ということもあり「曲に和魂洋才の文化的価値観、みやびな気持ちも込めた」と話す和田薫=東京都内で

 日本酒に聴かせるためのオリジナル交響曲ができた。モーツァルトの曲を聴かせて造ると、おいしい酒ができるなどといわれるが、人気銘柄「獺祭(だっさい)」の旭酒造(山口県)のプロジェクトの一環で、音楽家らが本気で日本酒造り「専用」に制作した。発酵や熟成の過程で曲をじっくり“鑑賞”した新酒は上々の出来だったという。 (藤浪繁雄)
 「交響曲 獺祭〜磨 migaki〜」は、映画や舞台、現代音楽など幅広く活躍する和田薫が手掛け、日本センチュリー交響楽団が演奏した(指揮・飯森範親(のりちか))。第五楽章まである楽曲のうち、第二楽章「発酵」と第四楽章「熟成」は、昨年の酒造りで重要な役割を果たした。

◆第二楽章「発酵」 ♪緩やかで心地よく

 蒸し米を酒母、米麹(こうじ)、仕込み水などと発酵させて、どろどろの液体「醪(もろみ)」にする工程で、緩やかで心地よい進行の第二楽章を聴かせた。酒の味に影響が出る熟成期には、躍動感あふれる第四楽章。楽曲は酒蔵全体に流すのではなく、音響機器メーカーが開発した高性能機器を樽(たる)に取り付けて、音の振動を伝わりやすくした。

◆第四楽章「熟成」 ♪躍動感あふれ

交響曲を聴かせたもろみが入ったタンク=旭酒造提供

 「『発酵』は静かに醪が育ち、『熟成』はお酒が活性化していくことを促す楽章にした」と和田。新酒はパワーとコクに満ちた仕上がりになったそうで、「醪自体が生きもので、常に変化していくと実感した。その中で曲の効用があったのでは」と振り返る。
 交響曲はCD化され、第五楽章まで完全収録した。仕込み樽の中に機器を入れて、「ポコポコ」と“成長”している様子が伝わる第二、第四楽章のバージョンも収めた。
 旭酒造の広報担当者は「音楽の効果は未知数の部分もあるが、酒造りに遊び心は必要」と話す。
 今年二月に大阪府と山口県で行ったコンサートの会場で、この音楽仕込み酒を限定販売したところ、大好評だったという。商品化するかは未定。コンサートは八月十八日、グランドプリンスホテル新高輪 飛天(東京都港区)で開催されることも決まった。

◆科学的根拠は不明も… 専門家「音波が作用もたらす可能性」

 日本酒のほか焼酎や味噌(みそ)など、音楽による振動が熟成や発酵に好影響を与えるとした醸造商品は、以前から存在する。科学的根拠は不明だが、専門家は「音波が何らかの作用をもたらす可能性はある」と話す。

◆モーツァルトの曲 聴かせた日本酒も

 神奈川県秦野市の金井(かねい)酒造店は三十年以上前から、発酵などの工程でモーツァルトを聴かせた日本酒のシリーズを発売している。佐野博之専務は「モーツァルトの曲は胎教にも良いとされる。同じ生き物として、酒にもいいのではないかと思った」と説明する。シリーズには吟醸や原酒、特別純米酒などがあり、「まろやかな味わい」と固定ファンも多いという。

金井酒造店のモーツァルトシリーズの日本酒

 音楽仕込みの商品について、音波と細胞の関係を研究している京都大学生命科学研究科の粂田昌宏助教は「音の作用により、発酵の促進や風味の変化があったという報告はあるが、科学的には確認されていない」と指摘する。
 一方で、音色が違えば、振動パターンも違い、酵母や醪に音や音域で異なる細胞応答が起こることはあり得るという。「音波が発酵微生物に何らかの作用をもたらす可能性はある」と希望も込める。
 医学や解剖学では「耳のような器官を持たない生命にとって、音は意味を持たない」と捉えられている。その意味で楽曲の醸造への影響には疑問符も付くが、粂田助教は「常識を覆し、生命と音の根源的な関係を解き明かしたい」と意欲を示している。

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