西村泰彦・宮内庁長官の発言 五輪への懸念「拝察」の意味とは?

2021年6月29日 17時00分

◆「説明不十分な現政権の姿勢が根本原因」

 平成の時代には、これらにとどまらない活動が目立った。2011年3月の東日本大震災発生直後、当時天皇だった上皇さまは国民向けのビデオメッセージを発表。戦後70年の節目となった15年には、安倍政権による安保法制が国論を二分する最中、太平洋戦争の激戦地となったパラオを訪問し戦没者を追悼した。16年には「退位したい」との意思をにじませる「お気持ち」をビデオメッセージで発している。
 歴史的な視点からみると、「拝察」は何を意味するのか。
 名古屋大の河西秀哉准教授(歴史学)によると、従来、天皇の懸念や心配は、宮内庁長官から政権に内々で伝えられ、対応が取られてきたふしがある。例えば、小泉内閣では女性・女系天皇を巡って有識者会議が発足し、野田内閣では女性宮家創設について検討がされた。「市民には唐突にも感じるが、おそらくこのメカニズムが働いた事例」とみる。
 そのうえで、西村長官発言の背景を「陛下のコロナに対する心配は、今回も菅首相らに伝わっていたはず。しかし、十分な感染対策が取られないまま、菅内閣が粛々と準備を進めたため、このような形になったのでは。五輪が開かれれば、五輪憲章に基づき、陛下が開会宣言でお祝いの言葉を言わなければならない。国民に対するある種のエクスキューズ(弁解)という側面もゼロではない」と分析する。
 ただ、今回の事態は象徴天皇制の観点からは望ましくないとし、こう続けた。
 「今後コロナ対策が強化されれば、天皇のイレギュラーな発言によって、政治的な物事が動くという前例を作ってしまう。つまり、天皇の政治関与をイレギュラーな形で認めてしまうことになる。国民の多くが懸念しているのに、説明も不十分なまま五輪開催に突き進む現政権の姿勢が、今回の問題を引き起こした根本の原因だ」

◆「大変心配されている」 宮内庁長官の一問一答

 宮内庁の西村泰彦長官の天皇陛下の懸念を巡る一問一答は次の通り。
 ―五輪の開会式や、競技ご覧で関係機関との調整など、長官の考えは。
 「開会式と競技ご覧のご臨席は調整中で、紹介できる状況ではない。天皇陛下は新型コロナウイルス感染症の感染状況を大変心配されている。国民の間に不安の声がある中で、名誉総裁をお務めになるオリンピック、パラリンピックの開催が、感染につながらないか、ご心配であると拝察している。私としては、感染が拡大する事態にならないよう、組織委員会をはじめ、関係機関が連携して感染防止に万全を期していただきたい」
 ―陛下は大会が感染拡大のきっかけになることを懸念されていると。
 「というのは私の拝察。日々、私が陛下とお話ししている中で、私が肌感覚でそう感じていると受け取っていただければと思う」
 ―陛下のお気持ちと言っても。
 「それは私の受け取り方ですから」
 ―そこまでおっしゃるということは軽い気持ちでおっしゃっていない。
 「陛下はそういうふうにお考えではないかと、本当に私は思っている。ただ、陛下から直接そういうお言葉を聞いたことはない」

 デスクメモ 五輪開会まで3週間余り。28日も東京の新規感染者は増加傾向で、比較的少ない月曜日なのに300人を超えた。五輪準備と折り重なるように、コロナのニュースが入ってくる。誰が本番への懸念を口にしても、何もおかしくない状況だ。本当にこのまま開催するのだろうか。(本)

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