「究極のテレワーク」遠隔操作でカフェで働く 分身ロボットが活躍

2021年6月30日 07時08分

【注文を取る】テーブルで注文を取り、客と会話を楽しむOriHime=いずれも中央区で

 寝たきりで外出が難しくても、人と関わり「出会いと発見」のある仕事ができる場を。中央区の日本橋に今月オープンした「分身ロボットカフェDAWN ver.β(ドーン バージョンベータ)」は遠隔操作できるロボットを活用し、そんな場を実現させるためにできた「常設実験店」だ。3年前から期間限定の出店を4回行い、ついに常設となっても「実験」の言葉を残し、今後も試行錯誤を繰り返しながら、究極のテレワークの店を作っていく。
 周辺で再開発が進む日本橋本町の交差点の一角。ロボットカフェというと近未来的な空間を想像するかもしれないが、店内は自然の中をイメージし、緑を取り入れた落ち着いた雰囲気だ。
 カフェは、テクノロジーを通じた「人類の孤独の解消」を掲げるオリィ研究所(二〇一二年設立)のオフィスと同じビルの一階にある。テーブルで「接客」するのは同研究所が開発した分身ロボット「OriHime(オリヒメ)」。パイロットと呼ばれる人が自宅などから遠隔操作して話し掛け、注文を取る。

【飲み物を運ぶ】遠隔操作で商品を運ぶ分身ロボットOriHime−D

 オリヒメはここ数年で活躍の場が広がり、体が動かせない人が友達と一緒に旅行したり、遠方にいる家族と会話したりするのに重宝されてきた。同研究所の吉藤オリィ代表(33)が次に目指したのは働ける場づくり。「世の中は体を運ぶことを前提にデザインされている。働く初めのステップで、肉体労働をテレワークでできないか、番田雄太と考えていた」
 番田さんとは、四年前に二十八歳で亡くなった吉藤代表の親友。四歳で交通事故で寝たきりとなり、病院からほぼ出たことがなかった。八年前、番田さんがあごでパソコンを操りメッセージを送ったのを機に二人の交流が始まり、オリヒメを使って吉藤代表の秘書になった。「秘書ならコーヒーを入れてよ」「それなら入れられる体を作ってよ」。そんなやりとりがカフェ構想の始まりだった。

コーヒーを入れるのも人型ロボット。肩に乗ったOriHimeが作業を指示する

 接客を可能にしたのは、オリジナルのオリヒメより大きい全長一二〇センチで、自走でき、胸の前でお盆を持てるよう新たに開発した「OriHime−D(オリヒメディー)」だ。テーブルで注文を取るオリヒメとは別のパイロットが操作し、飲み物や食べ物を運ぶ。「お待たせしました。どうぞお取りください」。テーブルまで来たオリヒメディーから客はスムーズに品物を受け取る。
 来店した都内の会社員浜上莉玖さん(23)は、コロナ禍で昨春の入社以来ほぼ在宅勤務。その場に相手がいるかのように頭や手を動かし自分の声で会話するオリヒメを見ながら「ずっと家にいて人と話さないのは良くないし、寂しいと思う時もある。こうしてコミュニケーションが取れるのはいい」と話す。

パイロットのプロフィルも表示される

 多発性硬化症で電動車いすを使い、歌手として活動する神奈川県のKeikoさんは、座高が高めの自身の車いすでも足を入れられるテーブルに感動した。「車いすで入れるカフェはそもそも少ない。この高さは飲み物も取りやすいし、テーブルから離れないので疎外感がない」と喜んだ。
 カフェでは調理などを担う生身のスタッフと、五十人超のパイロットが働く。海外在住の人もいる。三年前の初回から働くパイロットの三好史子さん(26)=松江市=は「自然に生身の現場の人とコミュニケーションが取れて、その場にいるみたいに『行ってらっしゃい』と言ってもらえ、雑談も生まれる」と話す。
 「一過性のイベントでなく、長期で行った時に数ある飲食店から選んでもらえるのか。重度障害の人が働くのは良い、というだけでは維持できない」と、吉藤代表は常設にして検証すべき課題を語る。「中に入っている人に障害があるからではなく、話していて楽しいと思えるのを目指す」。挑戦はこれからが本番だ。
 中央区日本橋本町3の8の3。オリヒメが接客する席はインターネット予約が必要。電話では受け付けていない。「分身ロボットカフェ」で検索を。
 文・神谷円香/写真・由木直子
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