香港国安法施行から1年 瞬く間に消えた自由… 大陸マネーで好況の一方 強まる「警察国家」色 

2021年7月1日 06時00分
 香港国家安全維持法(国安法)の施行から30日で1年がたった。中国政府に批判的な言論は国安法を理由に徹底的に抑え込まれ、教育にも干渉するなど香港社会は急速に萎縮している。中国共産党創建100年を7月1日に控え、香港の高度な自治を認めた「一国二制度」は国安法に踏みにじられた。(上海・白山泉)

香港で27日、中国国旗と香港特別行政区の旗が頭上に掲げられた通りを歩く人々=AP

香港国家安全維持法(国安法) 香港での国家分裂や政権転覆などを取り締まるため、20年6月30日に公布、施行された。周庭氏など民主活動家のほか、日刊紙「リンゴ日報」の編集幹部などこの1年で約110人が逮捕された。政権転覆はじめ犯罪規定はあいまいだが、最高刑は終身刑と重く、容疑者の国籍や犯罪を行った場所にかかわらず適用される。

◆デモも遠い昔 進んだ「浄化」

 「国安法違反になるからと、どの店からもレノン・ウォール(自由や民主を訴える付箋を貼った壁)がなくなった。ある意味で街はきれいになった」。香港に住む男性は皮肉交じりに話した。毎週のように大勢の市民がデモで街に繰り出していたのも「遠い昔のようだ」という。
 中国批判から芸能情報まで幅広く取り上げ、「香港人の日常の一部」といわれた蘋果(リンゴ)日報は24日に廃刊。発行元企業の「壱伝媒(ネクスト・デジタル)」も7月1日で業務を停止することを決めた。政治風刺で人気だった公共放送RTHKの名物番組も昨年6月に打ち切られるなど、当局に批判的なメディアが次々と狙い撃ちにされている。
 映画業界でも「国家安全に危害を加える行為を支持、美化する」内容を取り締まる検閲制度の導入が発表された。ある香港市民は「新聞雑誌のゴシップも減り、テレビもつまらなくなった」と、「浄化」された香港の寂しさを口にする。

◆愛国教育推進へ教員は「障壁」

 香港当局が次の標的として圧力を強めているのが教育だ。教員の多くはリベラルな考えの持ち主で、中国共産党が求める愛国教育を進める上での障壁と見なすからだ。
 その象徴が「通識科」だ。日中戦争など歴史問題や時事問題などを題材に、批判的思考を養う香港ならではの科目だが、9月の新学期から中国の歴史や改革開放などに重点を置いた科目に置き換わる。「国家安全を脅かす活動を制止する上で、学校が重要な役割を果たす」との指針も出ており、学内の言論も制限される懸念が強まっている。
 警察は昨秋、国安法に関するホットラインを立ち上げた。約10万件の密告には教員を標的としたものも多く、香港メディアによると、辞職や早期退職を考える教職関係者が増加。今年だけで1万3000世帯が英国に移住するとの調査もあるように、外資系企業に勤める香港市民は「香港の教育を懸念した友人たちが毎週のように英国に去って行った」と話す。

◆深まる中国との経済的結び付き

 社会の閉塞感が強まる一方、中国との経済的な結び付きは深まっている。香港証券取引所では中国大手企業の新規株式公開(IPO)が続き、今年1~3月期の域内総生産は7・4半期ぶりにプラス成長に転じた。大陸マネーというアメと国安法というムチに支えられ、保安当局幹部は「治安が向上し、香港経済は回復を加速している」と誇る。
 さらに警察出身の治安部門トップを香港政府ナンバー2に昇格させるなど「警察国家」の色を強めている。情報やインターネットの制限や監視強化が進めば、「以前のような自由がなくなり、金融センターとしての香港に影響を与える」(香港中文大の林和立客員教授)と懸念する声が出ている。

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