喰(く)うか喰われるか 私の山口組体験 溝口敦著

2021年7月4日 07時00分

◆糾弾と容認と 肉薄取材の重み
[評]内田誠(ジャーナリスト)

 ヤクザと聞いただけで虫酸(むしず)が走る方々にはお薦めできない本ではある。著者は日本最大の広域暴力団・山口組について「憎むべき敵、壊滅すべきだ、と言い切れない曖昧さを、私は心のうちに感じている」と吐露する人だ。そこだけ見れば「反社会的勢力」を容認するのかと反発されても仕方があるまい。しかし、五十年の長きにわたる「喰うか喰われるか」の取材を通して暴力団の実態を暴き出し、彼らが隠しておきたかったことも含めて記事や著書で晒(さら)してきた著者の言葉には、相応の重みがあると言うべきだろう。
 著者は『ドキュメント 五代目山口組』を出版後、暴漢に脇背を刺され、また構成団体の一つである山健組とのトラブルでは息子が襲われ、尻を刺される被害に遭っている。無関係の息子まで襲われたことに対して「暴力団の風上にも置けない」と書いているところをみると、暴力団の実際の行動を糾弾しつつ、他方で「まともな暴力団」とか「あるべき暴力団の姿」とでもいうべきイメージが浮かんでいるのかもしれない。しかし、文字通り体を張ってヤクザの実態を暴いてきた著者の姿勢から「任侠(にんきょう)」への甘ったるい憧憬(しょうけい)と同じものを嗅ぎ取ることはできない。
 本書は著者の山口組取材史であり、著者だけが知り得た大勢の幹部たちの人物評が、そこここに記されている。著者は「私の持論は、死んだヤクザは物語の世界に入る、だから多少持ち上げても、それは許される。しかし、現存するヤクザにおべんちゃらを書くのは恥だ。書き手の志の低さと卑しさを露呈することになる」と、人物評を書く際の原則を記しているのだが、山口組から分裂した神戸山口組がさらに分裂してできた任侠団体山口組(後に任侠山口組となり、さらに絆會(きずなかい)と改称)の織田絆誠(よしのり)会長についてはほとんどベタ褒めの体で、大いに当惑させられた。
 もしかしたら、著者はそこに「まともな暴力団」「あるべき暴力団の姿」を見ようとしているのかもしれないが、残念ながら説得力があるとは思えなかった。
(講談社・1980円) 
1942年生まれ。ノンフィクション作家。著書『暴力団』『食肉の帝王』など。

◆もう1冊

溝口敦著『新版・現代ヤクザのウラ知識』(講談社+α文庫)

関連キーワード

PR情報