<差別なき社会へ>街宣かき消す市民の声 地域ぐるみで「反差別の街」へ 市条例施行1年 川崎駅ルポ

2021年7月3日 07時40分

街宣を行う団体に向けて「差別のための場所はない」と虹色の旗を掲げて抗議する市民

 ヘイトスピーチに全国で初めて罰則を設けた川崎市の差別禁止条例が今月、全面施行から一年を迎えた。川崎駅前では、保守系団体による街宣はやまず、騒然とした状態が続く。街宣を監視する市は条例の罰則対象となる差別的言動を確認していないというが、差別は解消されたのか。非政府組織「外国人人権法連絡会」の瀧大知(たきだいち)さん(32)と、街宣の現場から考えた。(安藤恭子)
 六月二十七日昼、川崎駅東口。日の丸や旭日旗をはためかせた団体の街宣が行われた。差別に反対するカウンターの市民たちの抗議の声で、演説はほぼ聞こえない。「えらい人が来るの?」「ヘイトスピーチだって」。鉄柵で隔てた物々しい警備に、人々が目を丸くして通り過ぎる。
 街宣参加者のプラカードには「多民族共生がテロ・暴動」「大騒ぎは反日活動家 反日朝鮮人 反日中国人」「在日シナ人 国防動員法でゲリラ兵!」の文字。「シナ」は、中国への侮蔑の意を含む。中朝への敵視があらわだ。
 演説者の中には、排外主義政策を掲げる政治団体「日本第一党」に連なる人物もいる。瀧さんは「川崎は、『死ね』『殺せ』と在日コリアンを攻撃するヘイトデモを体験した街。条例後、露骨なヘイトは消えても、この街宣とかつてのヘイトデモの光景は重なり、同じ意味を持つ」と見つめる。
 「日本人よ、怒れ! 日本人だけに罰則が与えられる不平等な条例」と市条例を批判する横断幕もある。市は「日本人への差別は、立法の根拠となる社会的事実がない」と啓発パンフレットなどで否定してきた。
 瀧さんは、日本人だけに向けて「怒れ」と呼び掛ける表現自体、社会から外国ルーツの人々を分断し敵意をあおる危険をはらむ、とみる。街宣動画はネットで公開され「在日に乗っ取られている」と匿名で呼応する書き込みが連なる。
 この街宣を抗議でかき消してきたのがカウンターの市民だ。騒然となる駅前街宣の状況に「どっちもどっち」とみる向きもあるが、瀧さんは「違う」と断じる。「カウンターは社会の、差別への抵抗力を表す存在で、国民に努力を求めるヘイト解消法の理念の象徴。街宣がなければ、カウンターも消える」と考えるからだ。
 この一年で市条例の浸透は進み、本を読む市民が駅前に集まって週末のヘイト街宣を未然に防ごうとする「川崎駅前読書会」の風景が生まれた。瀧さんにはこれらの動きが、卑劣なヘイトに傷付いた場から、明確に反差別をうたう場へと、川崎の街が塗り替えられていく過程にも見える。
 「差別の放置は加担につながる。この問題に『中立』は絶対にない。川崎ほど地域ぐるみで反差別に取り組んできた自治体は他にない。国や県、他の自治体も川崎に続いてほしい」

街宣後、帰宅する街宣団体の警備で騒然となる川崎駅

◆街宣団体代表 市条例を批判

 川崎駅前で街宣を行ってきた「日の丸街宣倶楽部」の渡辺賢一代表は本紙の取材に、街宣の目的について「言いたいのは、川崎市条例への反対と言論の自由、日本を取り戻すということ。(カウンターが)大声で一方の言論を弾圧するのは良くない」と述べた。
 「私たちは差別、ヘイトスピーチを一切していない」としたが、条例の罰則要件に至らなくても、特定の人種や民族を敵や犯罪者とみなす表現をやめてはいない。街宣のネット動画には差別的な書き込みも連なっている。差別を助長している状況について尋ねると、「動画についてくるコメントにまで、責任持てっていうの」と反論し、あおられた人までは責任をもてないとした。
 「反日朝鮮人」などの差別的なプラカードについても「反日朝鮮人は日本人に害をなす。朝鮮人だからってみんなが悪いわけじゃない。今日も在日とかいっぱいいたけれど、あれは活動家の一部」と述べた。
 市条例は明確に差別を禁じているが、「一方だけを罰するのはおかしい。差別は信条の問題だから罰しない方がいい」との独自の見解を示した。

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