母でない女性は欠陥品なの? 不妊、流産、選択…事情それぞれ 根強い偏見への葛藤や悲鳴に耳傾けて

2021年7月5日 11時00分
 少子化対策の一環として不妊治療の保険適用や育休制度の充実など、さまざまな社会変革が進んでいる。その傍らで、ともすれば忘れられがちなのが、子どもを産んでいない女性たちの思いだ。出産経験がない人への偏見が根強く、言うに言えないさまざまな葛藤を抱えている人もいる。「産む性」の今について考えた。(木原育子)

◆「肩身狭い」「こどもの日がつらい」「罪と言われた」

 「子どもを産んでいないことに負い目があった。誰にも悩みを言えず、肩身の狭い思いで生きてきた」。6月中旬の日曜日の昼下がり、20~60代の女性約20人がオンラインで集まり、40代の参加者がこんな気持ちを吐露した。
 イベントの名称は「マダネ プロジェクト」。「まだまだこれから」と「NEO(新しい評価)」の頭文字を取った造語で、参加者の共通点は子どもを産んでいないということ。不妊治療の末に授からなかった、流産した、仕事を優先して適齢期を過ぎた…。自ら産まない人生を選択した女性もいる。既婚者、事実婚、バツイチ、独身など婚姻歴もそれぞれだ。

マタニティーマークを見るのがつらいと感じる人もいる

 この日のテーマは「実は傷ついていること」。40代後半まで不妊治療をした女性は、妊婦がかばんに付けているマタニティーマークのキーホルダーや、ベビーカーを押す夫婦を直視できなかった。「こどもの日がつらかった」と切り出すと、参加者は画面越しにうなずいた。
 30代の女性は「子どもがいない女性は自由でお気楽だと思われている。そこに至るまでの葛藤に気付いてもらえない」と語った。産まないと決めた女性は「子育ての話題で盛り上がる職場で、『私は子どもいないから』と言ったら周囲がしまったという雰囲気になった」。女性(44)は「経済的な問題もないのに、子どもをつくる努力をしないのは罪だ」と言った友人と疎遠になったと明かした。

◆同じ思いをした女性からの励ましで前向けた

 5年間、不妊治療をした介護職の女性(43)は、施設にいる高齢女性から日常的に「子どもがいなくて寂しいわね」と話し掛けられる。子を産み、専業主婦になるのが一般的だった世代。きっと悪意はない。分かっていても割り切れぬ思いを抱えていた時、入所者の女性(90)が励ましてくれた。
 「子どもがいなくても良かったと思えるぐらい、人生を楽しみなさい。一生は短い。めそめそしていたらもったいない」。女性も子どもを授からなかったと後から知った。この言葉を聞いて、前向きになれたという。

くどうみやこさん(本人提供)

 「葛藤を抱える者が互いに共感し、肯定し合うことで前向きになれる」。マダネを主宰する、くどうみやこさんは企業の宣伝部門で働き、31歳で結婚。独立して情報発信の仕事に没頭し、気が付くと妊娠が難しい年齢になっていた。
 ふと、「これで良かったのか」と悩むようになり、同じ立場の人の思いを聞いてみたいと考えたが、そんな場は案外ない。ならばと、2013年に自ら企画。集まった15人の女性と語り合うと皆、想像以上に切実な思いを抱えていて「誰にも言えなかった」と泣き出す人までいた。

くどうさんが「マダネ プロジェクト」などを通して感じたことをまとめた漫画と本

 気兼ねなく話せる場が必要と感じ、マダネを始動。交流イベントに加え、女性の本音を発信しようと、アンケートを取って結果をホームページに掲載したり、漫画や本を出版したりしている。   

◆「不産ハラスメント」やめて、多様性認め合って

 マダネのような場を求める人は多い。新型コロナウイルスの感染拡大後、集会をオンラインに切り替えると参加者は全国に広がり、申し込み開始から数分で定員に達する状況が続く。
 ただ、社会の理解は得にくい。持ち出しや参加者の善意に頼って運営するのは限界があり、3年前、企業に協賛を求めたところ「子育てイベントは応援できても、子どもがいない人のはしにくい」と断られた。くどうさんは「多様性という言葉は浸透しているのに、子どもがいない人の存在は容認されていない。孤立させるのではなく、生き方として認めてほしい」と訴える。
 厚生労働省によると、子どもを産んでいない女性の割合は1960年生まれが16.6%なのに対し、69年生まれは27%に上がっている。今後、合計特殊出生率(2020年は1.34)が1.4程度で進むと仮定すると、約3割は子どもを産まない計算になる。
 女性学研究の第一人者として活躍してきた東京大の上野千鶴子名誉教授は「子どもを産んでいないあなたに女の何が分かるのよ」と言われた経験がある。子どもがいない女性の価値を低く見るこのような行為を「不産ふさんハラスメント」と呼ぼうと提案する。
 「母にならない女性は欠陥品で人格的にも成長できないというハラスメントが社会に蔓延まんえんしていた。セクハラと違って産まないことを負い目に感じる女性も多く、耐えるしかなかった」

◆職場で嫌な思い75%、うち4割は「同僚女性」の言葉に傷つく

 マダネが昨秋、女性約200人(平均年齢43歳)に実施した調査では「子どもがいないことで職場で嫌な思いをした経験がある」のは75%で、職場に意見や不満を伝えたことがあるのは9.9%。誰の言葉で傷ついたかは「女性の同僚」が41%と最多だった。
 精神科医の香山リカさんは「女性だけに子育ての負担がかかって子ども中心の生活になり、そうではない人との間で溝が生じている。子育て中の女性を聖なる者のように捉えて大事にする男性も多く、結果的に、出産していない女性を否定している」と分析する。

赤ちゃんを抱く女性=東京都内で

 世の中には、子どもを持つのがどれほど幸せかという情報があふれている。香山さんは「マイクロアグレッションが起きている」と指摘する。直訳すると「小さな攻撃性」。意図的か否かにかかわらず、政治的、文化的に疎外された集団を見下し、侮辱しているという意味だ。

◆「産めよ殖やせよ」の時代から変わらぬ価値観

 香山さんは「子どもがおらず、常に疎外感を抱いている人は、周囲に悪意がなくても『あんなに子育ての話ばかりして当て付けなのかな』と受け取ってしまう。その蓄積が心の傷になる」と解説する。
 2人の息子を持つエッセイスト小島慶子さんは「子どもは親の所有物ではなく、同じ社会の構成員。一番弱いメンバーを皆で守り育てることが大事で、誰もが当事者意識を持つ必要がある」と述べる一方、「出産という体験を経てこそ一人前との考えはなくなっていない。何げないひと言で傷ついている人は多く、そういったことに思いをはせないといけない」と唱える。
 1941年1月に閣議決定された人口政策確立要綱には「1家庭に平均5児」が目標として掲げられた。近年の政治家の「女性は産む機械」「たくさん産んで国家に貢献を」といった暴言から類推して、「産めよ殖やせよ」の時代から本質的に発想は変わっていないように感じられる。
 上野さんは「不妊治療の技術が発達し、『努力すればできるはず』という社会の強迫がますます女性への抑圧を強めている。出産を業績のように捉えるのはやめ、それが全てではなく、さまざまな選択肢があると理解するべきだ」と強調した。

 デスクメモ 「お子さんはまだ?」。結婚している知人にこう聞く人は少なくないだろう。言った方は何げなく発していても、受け取る側の事情はさまざま。時に言葉はナイフのように人の心を傷つける。世の中いろいろな生き方があって、人それぞれ。何が正解かなんて誰にも分からない。(千)

(2021年7月4日東京新聞朝刊に掲載)

関連キーワード

PR情報

社会の新着

記事一覧