土石流発生前に熱海市が「避難指示」を出していなかった理由 「避難勧告」なくなり判断難しく

2021年7月5日 15時00分
 静岡県熱海市で3日に発生した土石流で、市は発生前、住民全員に避難を促す「避難指示」を出していなかった。県と気象庁が前日、避難指示と同じ警戒レベルとされる「土砂災害警戒情報」を出していたが、市は避難指示を見送った。市の措置は適切だったのか。取材を進めると、避難情報の発表方法が見直された影響が浮かんできた。 (小沢慧一、佐藤大)

◆「市には早めに手を打ってほしかった」

 「最近にない雨の降り方だった。命の大事さを考えると、市には早め早めに手を打ってほしかった」。土石流の後、連絡が取れない知人がいる小松小夜子さん(80)は避難所で市の情報発信に不満を漏らした。
 災害時の避難情報の発表方法は5月、60年ぶりに見直されたばかり。市町村が出す「避難勧告」をなくし、5段階に分けて上から2番目に重い警戒レベル4の「避難指示」に一本化。避難勧告では住民に危険の切迫度が伝わらず、逃げ遅れる例が相次いだための措置だった。
 だが同じレベル4の土砂災害警戒情報を受けても、熱海市は避難指示を出さなかった。

◆一本化で段階を踏めなくなった重み

 市は2日午前10時、体の不自由な人に避難を呼び掛ける高齢者等避難(レベル3)を出した。同日午後零時半、県と気象庁が土砂災害警戒情報を出したことを受け、2日夕と3日早朝に避難指示に切り替えるかを話し合ったが、気象庁の雨量予報をもとに見送った。
 熱海市の斉藤栄市長は3日の会見で「一時的に雨が強まることはあっても、雨量のピークは越えたと発表されていた」と強調。ただ、4日の会見では避難指示に一本化された重みが判断に与えた影響について「全くなかったとは言えない」と明かした。
 今回、避難指示を出した静岡市の担当者は「これまではまず避難勧告を出し、危なくなれば避難指示に切り替えるということができたが、今はいきなり避難指示で次がない」と話した。

◆避難指示を頻発させれば信用失う恐れも

熱海市が設置したタンクから給水する住民=5日午前、静岡県熱海市伊豆山で

 県は土砂災害警戒情報を生かしてほしかったとの立場だ。担当者は「空振りのリスクもあるが、崖の近くから離れたり、高い建物に移動することでも避難になる。土砂災害警戒情報が出たら、自治体は住民に災害のリスクは伝えてほしい」と柔軟な対応を求める。
 静岡大防災総合センターの牛山素行教授(災害情報学)は「今回は短期集中型の大雨ではなく数日にわたって降り続いたことによる土砂災害で、避難指示を出すタイミングを計るのが特に難しかった」と指摘。「避難指示を頻発させれば空振りも増え避難指示が信用されなくなる恐れもある。自治体は難しい判断を求められている」と分析する。

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