泉 麻人 東京深聞《東京近郊 気まぐれ電鉄》『地下鉄千代田線、単独駅の旅(前編)』

2021年7月14日 09時50分

コラムニストの泉麻人さんとイラストレーターのなかむらるみさんが、電車に乗って東京近郊の街を旅する「散歩エッセー」です。

千代田線に乗って、街歩き


 千代田線は個人的によく使う地下鉄だ。西は代々木上原で小田急線と中継、東は北千住で常磐線に合流しているが、綾瀬の先に北綾瀬という盲腸線の終点がある。今回は乃木坂からいくつかの単独駅(他線に同名の駅がない)に途中下車しながら、北綾瀬まで行ってみよう(この辺は次回更新になるが)と思う。
 乃木坂の赤坂寄りの改札を出ると、すぐ横に乃木神社がある。いまは外苑東通りの六本木側から下ってくる側道に「乃木坂」のイメージがあるけれど、乃木神社門前の赤坂通りが本来の乃木坂で、当初は“幽霊坂”の名がついた険しい坂道だったようだ。乃木——の名はもちろん、乃木希典のぎまれすけの邸宅があったからで、氏(と夫人)が明治天皇に殉死した際、当時の赤坂区議会により「乃木坂」と改称すると決議されたことに由来する。もっとも、乃木坂の地名がポピュラーになったのは、70年代(72年10月)に千代田線の乃木坂駅が誕生してからのことであり、さらに全国的に知られる地名になったのは、「乃木坂46」のブレイク以降といっていいだろう。
 アイドルの話が出たところで、そういえば僕も大学生の時代にここの境内でテレビ番組にちらっと出演したことがあった。日曜の昼にやっていた「歌のアルバム」(玉置宏の司会で有名だが当時は千昌夫と小島一慶の司会だった)の1コーナーだったが、僕らサークルの4、5人でなぜか“バナナの叩き売り”のマネ事みたいなのをやらされたのだ。あれは何かの祭りの日だったのか、ともかく冬の寒い日で、早くから待機していたのに僕らのシーンは中途半端にスッと終わって、カメラは境内の石段のあたりでゲストのChar(チャー)が「逆光線」って曲を歌うシーンに切り換わった。クラプトンっぽいイントロギターがカッコイイその曲を僕は気に入って、すぐにレコードを買ったのだ。

出発地点は、千代田線乃木坂駅。これから乃木神社、旧乃木邸を散策します。


 境内の一隅から上っていく石段の上には旧乃木邸とレンガ壁の馬小屋の一部が保存されているが、石段を見下すこの感じからして僕らがおよそ35年前にバナナの叩き売りをやったのは、この旧乃木邸の馬小屋の横あたりではないか? おもえばバチ当たりなことをしたものである。
 さて、今回は東京メトロ内1日乗降自由の「東京メトロ24時間券」(\600)というのを使って千代田線に乗車、次に降りたったのは二重橋前。

東京メトロ24時間券。この切符で千代田線沿線を巡ります。

 日比谷、大手町と通路はつながっているが「二重橋前」というのは千代田線の単独駅名。まず、日比谷寄りの馬場先門の前にある丸の内二重橋ビル内の東京商工会議所に入って、ロビーに置かれた渋沢栄一像を眺める。渋沢が東京商工会議所の初代会頭を務めた由縁で設置されたものだが、ここの渋沢像はおなじみの老年代のものではなく若い。43歳当時の写真をもとにした立像と聞いたが、大河ドラマの吉沢亮の風貌も重ねやすい(ビル6階には渋沢と東京商工会議所の歴史展示コーナーがみられる東商渋沢ミュージアム)。

東京商工会議所1階にある「渋沢栄一像」と一緒に。

 和田倉門(行幸通り)の方から皇居外苑に入って、ちょっと迂回するように二重橋の本体をめざす。乃木坂でも外に出た途端、雨が降ってきたが、ここでもまた雨が強まってきた。しばしば雨にやられるこの取材らしい。
 雨天のせいもあって、小石が敷かれた広場一帯は閑散としていたが、ぽつぽつと立つ可愛らしいポリスボックス(見張り所)のなかにはちゃんとおまわりさんがいて、こちらをじっと監視している。お堀(二重橋塚)に突き当たると、左手の皇居正門の前に石橋、左奥にもう1つ鉄橋が見えるが、奥の橋の方が従来の二重橋で、当初の木橋の時代に橋桁はしげたが二重(二段)の造りになっていたのが由来という。

皇居外苑の松並木とビル群。都会らしい景観を楽しめます。

こちらの皇居側も東京を代表する景色だが、反対側の広々とした皇居外苑の松並木越しに林立するビル街の景観も圧巻だ。あまりに整然としていて、なんだか精密なジオラマを眺めているような気分になる。二重橋前から都心の底を走りぬけて、新御茶ノ水、湯島、次の根津で途中下車することにしよう。(つづく)

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続きは、7月28日(水)更新予定です。
お楽しみに。




PROFILE


◇泉麻人(コラムニスト)
1956年東京生まれ。慶応義塾大学商学部卒業後、編集者を経てコラムニストとして活動。東京に関する著作を多く著わす。近著に『夏の迷い子』(中央公論新社)、『大東京23区散歩』(講談社)、『東京 いつもの喫茶店』(平凡社)、『1964 前の東京オリンピックのころを回想してみた。』(三賢社)、『冗談音楽の怪人・三木鶏郎』(新潮新書)、『東京いつもの喫茶店』(平凡社)、『大東京のらりくらりバス遊覧』(東京新聞)などがある。『大東京のらりくらりバス遊覧』の続編単行本が2021年2月下旬、東京新聞より発売される。




◇なかむらるみ(イラストレーター)
1980年東京都新宿区生まれ。武蔵野美術大学デザイン情報学科卒。著書に『おじさん図鑑』(小学館)、『おじさん追跡日記』(文藝春秋)がある。
https://tsumamu.tumblr.com/






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