民意を読まぬ安倍元首相のレッテル貼り 「反日的な人が五輪に反対」に批判殺到 

2021年7月8日 06時00分
 「月刊Hanada」8月号に掲載された安倍晋三前首相の発言が物議を醸している。東京五輪に対し「反日的」な人たちが開催に強く反対しているというのだ。各種の調査によると、いまでも五輪の中止を求める人は3割ほどになる。反日ではなく、コロナへの素朴な不安の表れではないのか。今回に限らず、レッテルを貼って批判を切り捨てる安倍さんの手法には批判が強い。(石井紀代美、中山岳)

安倍晋三前首相と桜井よしこ氏の対談が掲載されている「月刊Hanada」2021年8月号

◆「共産党に…朝日新聞も」

 安倍さんの「発言」は、保守系ジャーナリストの桜井よしこさんとの対談記事の中で飛び出した。
 東京五輪のコロナ対策が万全なのに、野党が開催による感染拡大を懸念している。桜井さんはそう言って「五輪を政治利用している」と批判した。これを受けて安倍さんは「極めて政治的な意図を感じざるを得ませんね。彼らは、日本でオリンピックが成功することに不快感を持っているのではないか」と同調。そして語った。
 「共産党に代表されるように、歴史認識などにおいても一部から反日的ではないかと批判されている人たちが、今回の開催に強く反対しています。朝日新聞なども明確に反対を表明しました」
 安倍さんは首相時代、今回の東京五輪の招致に関わってきた。2013年、東京開催が決まったブエノスアイレスでの国際オリンピック委員会(IOC)総会を覚えている人もいるだろう。あの「アンダーコントロール」発言が飛び出した会合だ。
 安倍さんは演説でこの言葉を使い、東京電力福島第一原発の汚染水が制御できていることを強調した。が、五輪を前に政府は海洋放出の方針を決めた。16年のリオ五輪閉会式では人気ゲームキャラクター「スーパーマリオ」の格好で登場し、話題になった。桜井さんの対談でも得意げに触れていた。
 当時は確かに反対の声は強くなかった。招致委員会がIOCに提出した「立候補ファイル」では「大規模な反対運動はない」と言い切っていた。五輪への思い入れが深い安倍さんだけに、様変わりした今の状況が認められず、「反日」という強い言葉を使ったのかもしれない。

◆開催反対は素朴な「コロナへの不安」

 実際、五輪中止を求める声はいまだに強い。
 開催まで1カ月と迫った6月に実施した共同通信の世論調査では「中止する」と答えた人が30・8%に上った。開催による感染の拡大に不安を感じている人は8割以上に上った。ほかの報道各社の調査でも約3分の1が中止を望んでいるという結果が出ている。
 どう考えても、開催に反対している人たちは、素朴に「コロナへの不安」を感じているだけ。「反日」という言葉を使うのは、あまりに不適当ではないか。
 コラムニストの小田嶋隆さんは「本来『反日』は、国際情勢を分析する人たちが『親日』との対概念で、外国の政治勢力やリーダーに使っていた言葉。一方、日本人には『反政府的』『反体制的』などが用いられてきた」と説明する。
 日本人に「反日」を使いだしたのは、21世紀に登場したいわゆる「ネトウヨ」と、小田嶋さんは言う。その大まかな意味や用法は、戦前戦中の「非国民」と同じだ。
 小田嶋さんは「反日発言で安倍さんは『私はネトウヨです』とカミングアウトしたようなもの。国民を『日本に反する人間』と見なしているわけで、政治家として終わり」と指摘した。
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