民意を読まぬ安倍元首相のレッテル貼り 「反日的な人が五輪に反対」に批判殺到 

2021年7月8日 06時00分

◆「批判に耳ふさぐ姿勢」

 安倍さんは首相時代にも、批判を受けると一方的に相手を切り捨てる場面があった。象徴的だったのは、2017年7月の東京都議選での応援演説だ。

都議選の自民党候補の応援に来た安倍晋三首相(当時)に対し抗議の声を上げる人たち=2017年7月1日、東京都千代田区で

 JR秋葉原駅前で演説した安倍さんに、聴衆の一部が「安倍辞めろ!」と連呼した。演説中に抗議の声が大きくなると、安倍さんは聴衆を指さして「こんな人たちに負けるわけにはいかない」と言い放った。
 確かに「辞めろ」の連呼には腹を立てた安倍さんの支持者もいただろう。だが、「こんな人たち」の中には、「憲法を守れ」というプラカードを掲げる人たちもいた。賛否はあろうが、真っ当な主張だ。安倍さんの演説の映像がテレビのニュースやSNSで広まると、批判が起きた。
 政治評論家の小林吉弥さんは「首相時代の国会答弁でも、批判に耳をふさぐ姿勢が目立った。批判や異論をのみ込むのもトップリーダーの度量なのに、強気一辺倒で自説を展開することが多かった」と振り返る。
 今回の「反日」発言について、小林さんは「東京五輪の誘致から深く関わった安倍さんは、とにかくやるべきだと考えている。ただコロナ禍で五輪が開かれることに国民の多くは不安に感じている。それなのに中止や延期を求める人々を反日的と表現するのは、あまりに間口を広げて批判している」と語る。

◆都議選で見えた「民意」

 東京五輪の中止や延期を含めて見直しを求める民意は、4日に投開票された都議選でもうかがわれた。
 「中止」を訴えた共産党や「延期・中止」の立憲民主党が議席を伸ばした。「無観客開催」を主張した都民ファーストの会などを含め、見直しを訴えた政党の議席は66で過半数を占めた。対する自民党は第1党を奪還したものの33議席。事前に予想されたほどには伸びなかった。
 都議選の結果を受け、ジャーナリストの鈴木哲夫さんは「支持政党にかかわらず、多くの都民が自然な感情から五輪開催に疑問を投げかけている。そうした人々を『反日』と線引きする安倍さんは、民意が分かっていないと言わざるを得ない」と指摘する。
 開催にこだわる理由について、鈴木さんは「もし開けなければ、昨年に1年延期を決めた安倍さんの政治決断が間違いだったということになる。それを避けたいのではないか」とみる。

◆ブーメラン発言

 駒沢大の山崎望教授(政治理論)は、安倍さんが「反日」発言をした対談記事で、立民の枝野幸男代表について「私に一切質問せず一方的な批判に終始するなど、インタラクティブ(双方向)な議論を避ける特徴があります」と述べた点にも注目する。
 「枝野さんが自らと異なる意見を受け止められないと言いたいのだろうが、まるで安倍さん自身に返ってくるブーメランのような発言だ」
 その上で、山崎さんは「意見の異なる相手を『反日』と切り捨てるのは、五輪に反対する人とは共存できないと言ったに等しい。政治家なら言ってはいけないレベルの発言だ。歴代首相の中でも最も長く在職し、発言の影響力も大きい安倍さんが口にしたのも大問題だ」と強調する。
 首相が異論や批判に耳をふさいで相手を排除する場面は安倍政権以降、国会でも繰り返されていると山崎さんは言う。
 そして山崎さんは「意見の異なる相手と議論して合意を図ることが、政治の現場で成り立たなくなりつつある。このまま放っておけば、民主主義が壊れていく恐れすらある。安倍さんの今回の発言は危機を象徴していると言え、過去の失言とは比べられない危うさをはらんでいる。見過ごしてはならない」と警鐘を鳴らした。

◆デスクメモ 気になった招致ファイル

 「少数意見にも真摯(しんし)に対応」「建設的な批判は受け入れる」。2016大会招致ファイルの言葉。2020のファイルになく、気になったのが「スポーツイベントを好み、参加したいという内に秘めた願望と情熱が共存する国民性」との記述。読んで嫌な気持ちになった。(裕)
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