コロナに打ち勝った証し?緊急事態宣言下の五輪、有効な感染対策は「中止」では

2021年7月9日 06時00分

◆東京「感染1日2000人」予想も

 この「打ち勝てなかった」状態のまま、つまり感染を抑え込めていないまま五輪に突入すれば、より深刻になりかねない。
 先月末に京都大などが明らかにしたシミュレーションによれば、五輪期間中に人流が5%増えると想定した場合、デルタ株の影響が小さい最も楽観的なシナリオでも、東京の1日当たりの感染者数は今月中に1000人を超え、2000人程度まで増加しうるという。
 何とかしてこの状況に歯止めを掛けたいところだが、五輪で来日する関係者が新型コロナを持ち込んでしまう可能性がある。そんな中でカギになる水際対策は緩いままだ。通常は日本に入国した場合、14日間の隔離が求められるが、五輪選手らは免除される。
 より明確な形で問題があらわになったのが、ウガンダ選手団のケースだ。6月に来日した9人のうち2人の感染が判明し、うち1人は空港の検疫をすり抜けて合宿先の大阪府泉佐野市まで移動したほか、同行した市職員らが濃厚接触者と判定された。インターパーク倉持呼吸器内科(宇都宮市)の倉持仁医師は「国内に感染症が入り込むのを防ぐことが検疫所の仕事なのにできていない。感染症対策として当たり前のことをやらなければ当然、感染が広がってしまう」と訴える。

◆穴だらけのバブル方式

 政府も一応、感染防止策を打ち出している。五輪関係者の行動範囲を競技場や宿泊施設などに限定する「バブル方式」を採り、外部との接触を断つという方針だ。しかしコンビニエンスストアの利用やレストランの個室での飲食を認めており、穴ばかりが目立つ。
 倉持さんは「政府は経済優先でコロナの脅威を過小評価してきた。五輪のコロナ対策でも過小評価の姿勢は変わっていない」と述べ「世界各地で変異株が次々にできている。来日する五輪関係者がそれらを持ち込み、未知なる変異株が培養されないか。手の打ちようがない事態にならないかと心配している」と続ける。
 迎え入れる日本側が来日した五輪関係者を感染させないとも言い切れない。選手村で働く大会組織委職員や選手団を取材した静岡放送の関係者の中に、陽性者がいたと分かったからだ。

◆「切り札」のワクチンも混乱

首相官邸で記者団の取材に応じる菅首相=7日、首相官邸で

 国民にとって感染対策の切り札になるはずのワクチンも混乱が生じている。自治体が大規模会場で行う接種や職場接種は6月下旬以降、供給が追いつかず、申請の受け付けをストップした。強く申請を促していたにもかかわらずだ。国立感染症研究所の元研究員で内科医の原田文植さんは「あまりにお粗末。ワクチンが足りなくなる事態を想定していなかったのかと思ってしまう。国民の間で不満がたまる一方だ」と語る。
 政府の残念ぶりが浮き彫りになる中、4度目の緊急事態宣言が出ることになった。リスクコミュニケーションに詳しい大阪大の平川秀幸教授(科学技術社会論)は「『五輪はやるけど国民は我慢して』という論理は矛盾に満ちている。国民にしてみれば『訳がわからない』という思いばかりが募る」と切り捨てる。
 明治大の西川伸一教授(政治学)も「五輪を開くのは菅政権の実績づくりと延命のためになっている。そんなことは国民も気付いているから、五輪を特別扱いする緊急事態宣言が素直に耳に入ってこない」と指摘し、こう続ける。
 「緊急事態宣言は国民に協力をお願いするのが主たる狙い。宣言の効果を最大限に引き出すには国民の心を強く引きつけることが必要になる。そう考えると、『五輪も特別視しない』『中止するから国民も我慢を』と打ち出すのが最も効果的と言える。首相がコロナ対策を1番に考えるなら、容易に決断できるはずだ」

◆デスクメモ 「それでも本土決戦に突入するのか」

 そもそも「コロナに打ち勝った証しとしての東京五輪」など誰も求めていなかったが、それでも自ら「勝ち負け」を口にした以上、勝敗は問われる。緊急事態宣言発令に至った今の状況は、はっきり「負け」だ。敗軍の将が居座ったまま、五輪開催という「本土決戦」に突入するのか。(歩)
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