米軍撤退で祖国は「タリバンが占領するだろう」 アフガン出身の米軍協力者

2021年7月10日 06時00分
ビデオ会議システムで取材に答えるイスマイル・カーンさん

ビデオ会議システムで取材に答えるイスマイル・カーンさん

 【ワシントン=吉田通夫】バイデン米大統領は8日、アフガニスタンから米軍が撤退した後も反政府武装勢力タリバンの政権復帰を否定し、米軍に協力してきたアフガン人の救済も約束した。しかし、実際に米軍に協力し犠牲を払ってきたアフガン人からは懐疑的な声も漏れる。米軍特殊部隊の元通訳で、現在は米西部ワシントン州で空港職員として働きながら元米軍協力者の移民を支援しているイスマイル・カーンさん(35)は同日、本紙のインタビューに、タリバンが攻勢を強める祖国の将来に危機感をあらわにした。

◆常に死亡証明書を携帯

 アフガン東部ジャララバード出身のカーンさんは、兄らが米軍で働いていたため、自身も2007年から11年まで通訳を務めた。「米軍は犠牲を払ってきたのだから、私もこの国の平和と安全のために役割を果たそうと思った」と言う。
 通訳の仕事は、部隊と行動する「訓練を受けていない兵士」。常に死亡するリスクがあるため死亡証明書を持ち歩き、家族もタリバンに狙われる。実際、13年には米軍協力者だったいとこの末っ子がタリバンに誘拐され多額の身代金を支払った。さらに最近、長男が殺害されたという。

◆米国への移住にビザ取得の壁

 「タリバンはあらゆるところにいて、だれの親族がどこにいて何をしているのか把握している。米軍協力者を一人残らず追いかけ、復讐ふくしゅうする」とおびえる。自身も危険を感じ、14年に妻子と米国に移り住んだ。ただ、米軍で一定期間働いた協力者に発行される特別移民ビザを取得するまでに、3年もかかった。
 それでも「幸運なほうだった」という。「トランプ前政権の4年間に1万8000件のビザ申請があったが、処理していたのは12人の職員だった」といい、「タリバンに狙われながら5年、10年と待つ人もいる」と肩を落とす。「(長男を殺された)いとこも、まだビザを待っている」
 バイデン氏はビザの発給手続きを早め、第3国に出国して待機できる計画を明らかにした。カーンさんは「ポジティブに受け止めている」と言いつつ「別の問題もある」と指摘。ビザの対象は配偶者と子供までで、自身の両親と兄弟姉妹は今もアフガンにいる。「米国に移って7年、毎朝、携帯電話を見て無事を確かめてきた。何かあったら私のせいだ」と自身を責める。

◆タリバン反攻で米軍協力者は「怖くてたまらない」

 米軍が去れば「タリバンは数週間で国を占領するだろう」と予想し「協力者は家族の命を危険にさらしてきた。怖くてたまらないんだ」と救済を求めた。
 「私たちが何者でどのような状況にあるのか、日本のみなさんにも広く知ってもらいたい」。取材中、まったく笑顔を見せなかったカーンさん。「米国と同盟国が最新の兵器をもってしても、一握りのタリバンに勝てないなんて信じられない」と語った時だけ、悲しそうに笑った。

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