五輪無観客、直前決定で無駄もさらに増加 「コロナに打ち勝った証」に執着のツケは税金で

2021年7月10日 06時00分
 東京五輪の観客上限を巡る政府や国際オリンピック委員会(IOC)らの8日の5者協議で、1都3県の34競技会場は一律無観客開催となった。感染リスクは減ったが、開幕直前の決定により、運営の混乱や無駄になった支出も多い。「コロナに打ち勝った証し」として観客が入った開催にこだわったツケは国民に降り掛かる。(原田遼、岡本太、清水俊介)

東京五輪について協議する(左から)東京都の小池百合子知事、大会組織委の橋本聖子会長、IOCのバッハ会長、丸川五輪相=8日、東京都中央区で(代表撮影)

◆首相は観客入りに執着

 「5者協議で方向性を決められた。安全安心のために全力で取り組んでいきたい」。菅義偉首相は9日、東京などが無観客開催となったことを受け、淡々と記者団の取材に応じたが、心中は穏やかでなかったに違いない。
 首相は、国会や記者会見で「素晴らしい大会を子どもや若者に見てもらい、希望や勇気を伝えたい」などと情に訴える発言を連発。「なるべく普通の状態で開催したい」(周辺)と、観客入りにこだわり「意思は固い」(自民党中堅)とみられていた。
 だが、4日投開票の東京都議選で、政府のコロナ対策への不満から自民党が苦戦。世論の圧力と感染再拡大で東京への緊急事態宣言発令を余儀なくされた。政府高官は「国民に感染防止で協力してもらうためにも、無観客の方が分かりやすい」と苦渋の決断を分析。小池百合子都知事も8日夜、「菅首相とも頻繁に連絡を取り合い、その中で無観客の流れも出てきた」と述べ、首相の「断腸の思い」を代弁した。

◆二転三転で無駄な支出も

 「決定が二転三転した。日々変わる感染状況の中、4月に決められると思ったが、5月、6月となり、今回まで延びた」。組織委の橋本聖子会長は8日、こう説明したが、観客を入れるため、先延ばしにされた影響は大きい。
 観客入りを想定して造られた仮設スタンド、荷物検査の機器、熱中症対策などのテントなどの多くは設置済みで、無駄になった。委託業者を通じて確保した運営スタッフや警備スタッフも相当数が必要なくなる。業者への依頼を取り下げても、キャンセル料を求められる可能性もある。チケット収入で計上していた900億円の大半が消滅。現在の1兆6440億円の大会予算で赤字が生まれれば、都や国が税金から補てんする。

◆目先の欲が裏目に

 ある組織委幹部は「もう2週間前。今さら浮くお金はほとんどないだろう。4月に判断していれば、もう少し違ったかもしれない」と指摘する。「5月下旬にかけて感染者数が減り、欲が出た。組織委は客を入れたいし、政府も政権浮上につながるもくろみもあっただろう。裏目に出て、自らイメージを悪くした」と悔やんだ。
 観客がいなくなれば、ホテル、飲食店にも影響する。組織委と東京都と合わせて10万人に依頼しているボランティアも一部は必要なくなる。
 観客入りの可能性を直前まで残した分、開催を心待ちにしていた人の失望は大きい。一方、開会式ではIOC委員や首脳など各国要人、スポンサー関係者が「別枠」で観覧する。橋本氏は入場する関係者の削減を検討しているが、別の幹部は「『日本に来てください』と言って招いている以上、断るのは難しい」と本音を語った。

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