再刊 リベラルマインド 西部邁著

2021年7月11日 07時00分

◆今の世にも通ずる思想の根源
[評]小西德應(明治大教授)

 今なお誤解されることが多い(であろう)西部氏が一九九三年に出版した本に、死の直前の自序を載せた再刊本である。この説明だけでも多くの紙幅が必要だが、本書の意義に関わる点にだけ言及しておく。再刊の発端は、氏の生前に中島岳志さんが復刻を求めるツイートをし、それを見た氏の娘さんが「自費でも出版したい」と願ったことだった。絶筆であろう序文、氏が共著の形での出版を望んだ中島さんの解説が加わった。
 「誤解」の理由は、本書にあるように「保守」が批判語である日本で氏が一貫して保守を自任してきたことが一つ。次に氏の論評対象が多岐にわたる上に論点が多く、説明も縦横無尽だからだ。さらに古今東西にわたる引用、日本語表記に英・仏・独・ギリシャ語等のルビが付されることによる説明内容の重層化、レトリック、挑発的表現も誤解を招きやすい。理解を諦めるか、結論が明快なだけに理解したつもりの人が多かったであろう(私もだ)。
 なお初版が出された九三年は、氏が東大教授などを辞して言論活動を本格化させていた時期で、まだ「保守」を前面に打ち出しておらず、自死を本気で考え始めた前年に当たる。世界は冷戦体制、湾岸戦争終結後の混乱期で、日本はバブル経済の崩壊、自民党長期政権の終焉(しゅうえん)後で、選挙制度改革のさなかにあった。
 本書はそうした個人的、社会的状況の中で、氏の思想の全体像が示された初の作品であり、思想の「原初」がわかるものだ。政治思想、社会構造、選挙制度や政党論、マスコミ論などに言及しながら世界と比較しつつ、歴史を踏まえて日本の現状を論じている。
 一読しただけでは書名のリベラルマインド(あとがきには「自由の心性」とある)を日本人が獲得する必要性と可能性があるとの氏が本書に込めた思いを理解することは容易ではない。だが、出版からおよそ三十年たった今、氏の思いと思想の根源を想起できる社会状況が訪れている。「最初」と「最後」が同じものという点で、氏を再評価する上でも興味深い本である。
(エイアンドエフ・1650円)
1939年生まれ。評論家。著書『経済倫理学序説』など多数。2018年自裁。

◆もう1冊

中島岳志著『「リベラル保守」宣言』(新潮文庫)

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