志願者不足に悩む中国人民解放軍 若者は「自由ない」軍離れ、老兵の動員で求心力強化も

2021年7月13日 06時00分

中国河南省鄭州の歴史博物館で5月、朝鮮戦争に従軍した経験を語る元兵士の趙楼生さん(坪井千隼撮影)

◇中国共産党100年 党と軍(上)
 中国河南省鄭州ていしゅうの老人ホーム「老戦士の家」では、朝鮮戦争(1950~53年)を戦った元兵士ら60、70人が過ごす。今月1日朝、彼らは国旗を手にテレビの前に集まり、北京の天安門広場で行われた中国共産党創建100年の祝賀式典の中継を見守った。
 老人ホーム関係者によると、習近平しゅうきんぺい総書記が演説で「外国勢力によるいじめや圧力を絶対に受け入れない!」と訴えた時、ひときわ力がこもった拍手とともに、感涙を流す姿が見られたという。関係者は「若いころに従軍し、党の発展とともに歩んだ人生を振り返っていたのだろう」と話す。
 習氏が演説で「強国には強軍が不可欠だ」と訴えたように、党の統治に軍は欠かせない。それを支えてきたのが老人ホームの元兵士らのような「老戦士」で、山東省出身の趙楼生ちょうろうせいさん(87)もその1人だ。日々の食事にも事欠く農家に生まれた趙さんは朝鮮戦争に従軍し、退役後は当局が手配した職場で定年まで勤めた。
 「装備が貧弱で、多くの戦友が凍死した」。趙さんは月数回、老人ホーム近くの歴史博物館で、朝鮮戦争での経験を学生らに語る。趙さんは「今の中国の繁栄は名もない兵士らの犠牲の上にある」と訴える。
 習指導部は、趙さんらを語り部として多数動員し、求心力の強化に利用する。習氏も1日の式典で「新中国建設で犠牲となった英雄たちに深く思いをはせる」と語った。

◆人気俳優を使ったPR動画も

 だが中国が豊かになったことで、人民解放軍は志願者不足に悩む。6月中旬、軍が新兵募集の重点対象とする北京の中国人民大学で、留学予定の4年生の男性(22)は「軍を希望する学生は、僕の周囲にいない」と話した。別の学生(21)も「軍隊生活は自由がなく、キャリアアップにもならない」と言い切る。

人民解放軍が中国版ツイッター「微博(ウェイボ)」上に公開した、新兵募集のPR動画の一場面。若者向けに人気俳優を起用した

 北京の軍事シンクタンクの周晨鳴しゅうしんめい研究員によると、2000年ごろまでは「待遇が安定し、各種資格も取れる軍は若者に人気だった」。しかし、大学進学率は同年の12・5%から昨年の54・4%と上がり、「有利な就職先が多い大都市の大卒者は軍に来ない」(周氏)と指摘する。
 新兵の不足は今後、周辺との摩擦が絶えない中国の安全保障の足かせとなる可能性もあり、軍の危機感は強い。香港メディアによると、兵士らの給与を最大4割引き上げることを検討中だ。今年は新兵募集のため人気俳優を使った映画のようなPR動画を公開した。
 先述の趙さんは「国を守る大切さを伝えたいが、今の若者には、われわれの世代のような困難は想像できないのだろうか」と嘆く。 (北京・坪井千隼)
  ◇
 政権は銃口から生まれる―。建国の父、毛沢東もうたくとうが言ったように、党の統治は人民解放軍が支えてきた。足元の現実を追った。

 ▽朝鮮戦争 朝鮮半島の統一を目指す北朝鮮軍が1950年6月、韓国に侵攻して始まった。米軍主体の国連軍が韓国を支援、北朝鮮には中国軍(人民志願軍)が介入して北緯38度線を挟み一進一退し、53年7月に国連と北朝鮮、中国の間で休戦協定が結ばれた。中国軍は毛沢東の長男、毛岸英(もう・がんえい)はじめ約18万人が戦没しており、北朝鮮と「血で結ばれた関係」と言われるゆえんとなった。

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