酒の取引停止、「密告まがい」のチェックも…西村大臣 国民の空気を読まぬ「北風」政策

2021年7月13日 06時00分
 飲食店が「集中砲火」を浴びている。4度目の緊急事態宣言が12日、東京都に発令されたのに伴い、前回の宣言時に続いて酒類の提供が禁止になった。それどころか政府は、要請を守っていない店に酒を売らないよう取引先に要請したり、感染対策ができているか客にチェックさせたりといった方法まで導入するとしている。酒はそこまで悪なのか。(中山岳、石井紀代美)

4度目の緊急事態宣言初日を迎えた上野の飲食店街=12日、東京都台東区で

◆「我慢の限界だ」

 「緊急事態宣言が繰り返され、今年はまともに酒を提供できた日がほとんどない。我慢の限界だ」。宣言初日の12日、東京都台東区の上野駅近くにある立ち飲み居酒屋「おでん 田楽」で仕込みをしていた池貝慶彦店長(42)は憤った。
 コロナ禍前は月400万円以上あった売り上げは過去3度の宣言中、100万円ほどに激減した。それでも、まん延防止等重点措置が取られた先月21日~今月11日は政府と都の要請に応じて午後7時で酒の提供をやめ、8時で閉店。店内の消毒や換気を徹底し、客同士の間隔を空けるといった対策も取ってきた。
 池貝さんは、要請に従い酒は提供しないとしつつ「売り上げの半分以上は酒類なのに、夏場に見込めるビールなどの需要も消えた。勘弁してほしい」とため息をついた。

◆「また酒禁止言うだけ」

 宣言中に休業や時短営業の要請に従うと、中小は1日4万~20万円、大企業は同最大20万円の協力金が出る。ただ、飲食店が立ち並ぶ上野駅周辺で聞くと、多くの店から「協力金だけでは店を続けられない」との声が聞かれた。実際、12日昼も要請に応じず酒を出し、客でにぎわっている店がいくつもあった。

飲食店の入り口に掲示されている感染防止対策を記した張り紙=12日、東京都台東区で

 店先に臨時休業の紙を張っていたバー「夜行列車」の坂田哲人店長(58)は「従業員を多く抱える店は、協力金をもらっても人件費が賄えないので酒を売らないとつぶれてしまう。家族経営のうちでも、家賃などを考えると協力金では足りず、借金をして何とか生活できるレベル」と嘆く。
 坂田さんは、まん延防止措置中に都が示した「客は最大で1組2人、滞在90分まで」という要請も、科学的根拠があったのか疑問視している。「言う通りやっても感染を抑え込めなかった。また酒禁止を言うだけでは、何も考えていないのと同じだ」と怒りをにじませる。

◆「アメとムチ」

 苦境続きの飲食店をさらに追い込むような動きもある。政府は酒類の卸売業者でつくる業界団体に8日、休業要請などに応じない飲食店との取引を停止するよう依頼。一方で、酒を出さないという誓約書を出した店に1日4万円の協力金を先払いする施策も始め、「アメとムチ」で言うことを聞かせようとしている。
 肉料理店「肉の大山」で客の検温に追われていた店員杉本隼一さん(25)は「店に我慢を強いるばかりで、通常通り営業できるようにしようという支援策がほとんどない。例えばワクチンを打った証明書を見せれば飲めるようにするなど、政府はもっと工夫してほしい」と注文を付ける。
 臨時休業中の焼き鳥店で掃除をしていた30代の男性店長は「休業と時短が続いて疲れ切った。親会社からいつ解雇されるか分からない。一刻も早くコロナ禍を終わらせて」と訴えた。

◆予約サイトで感染対策の情報収集

 政府の飲食店包囲網はそれだけにとどまらない。西村康稔経済再生担当相は2日の会見で、飲食店の感染対策が十分かどうか、客に「密告まがい」のことをさせる考えを示した。

西村康稔経済再生担当相

 使うのは、予約サイト「食べログ」「ぐるなび」「ホットペッパーグルメ」。手指の消毒や客同士の距離、マスク着用状況、換気の4項目についてアンケート欄を設ける。利用後に「はい」「いいえ」で答え、1~5点で評価してもらう。情報を集約して都道府県と共有し、飲食店への改善指導などに活用する。
 8日には、酒類の提供禁止に応じない飲食店に対し、取引先の金融機関から順守を求めさせる方針を示した。運転資金などの融資を受ける金融機関から圧力を掛けさせるようなやり方には批判が殺到し、9日に加藤勝信官房長官が「金融機関に対する協力はお願いしないことにした」と述べ、撤回する事態に追い込まれた。
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