飯塚被告は「クリスマスの写真」と言ったけど…松永さんが提出した本当の4枚 池袋暴走事故

2021年7月15日 06時00分
 東京・池袋で2019年4月、乗用車が暴走し、松永真菜まなさん=当時(31)=と長女莉子りこちゃん=当時(3)=が死亡した事故の刑事裁判は15日、東京地裁で検察側の求刑や弁護側の最終弁論がある。遺族の松永拓也さん(34)も意見陳述で被告人への心情を語る。拓也さんは6月の前回公判で直接、被告人に質問していたときには声を荒げず、公判後の記者会見で「私は加害者を心から軽蔑しました」と吐き出した。今回は被告人の前で思いを打ち明ける。(福岡範行)

◆「拝見しました」と明言も

 前回公判で、自動車運転処罰法違反(過失致死傷)の罪に問われた飯塚幸三被告(90)は、松永さん家族の写真について、記憶違いの証言をしていた。拓也さんから、捜査段階で証拠として提出していた家族写真を見たか問われた飯塚被告は「はい。拝見しました」と明言。写真の説明を促されると、記憶をたどりながら「クリスマスの写真があったような気がします」などと答えた。しかし、そうした写真は、証拠提出した中にはなかった。
 実際は、莉子ちゃんが生まれたときの写真や、ひと月ごとに誕生祝いをした成長記録、家族3人でお出かけしたときの写真などだ。拓也さんは亡くなった2人が懸命に生きていたことを飯塚被告に知ってほしくて、2019年11月ごろ、15種類の写真を用意し、それぞれに説明書きを添えた。検察に証拠として出したいと相談し、15種類の中から写真を選び直した上で提出した。

◆「おっさんみたい」な仕草かわいくて

 そのうちの4枚が春の花見、夏祭り、紅葉狩り、冬の温泉だ。

春のお花見に出掛けた松永さん家族(松永拓也さん提供)

 「春には桜を見に行き、夏には海やお祭り、秋には紅葉を見に行き、冬は温泉に行きました。家の風呂がとても狭いこともあり、莉子は広い温泉が大好きでした。金銭的にそこまで余裕があるわけではありませんでしたが、莉子の喜ぶ顔が見たくて、何回も温泉に連れて行きました。もっと3人でいろいろなところに行き、いろいろな体験をし、ずっと3人で生きていきたかったです」とコメントを添えて証拠提出した。

夏祭りを楽しむ松永真菜さんと莉子ちゃん(松永拓也さん提供)

 遠出は、松永さん家族の楽しみだった。初めての遠出は、莉子ちゃんが6カ月だったころに行った千葉県銚子市の犬吠埼。近くの公園でのピクニックも含めれば、週末ごとに3人でお出かけしていた。

紅葉狩りを楽しむ松永さん家族(松永拓也さん提供)

 温泉では、真菜さんにのんびりしてもらおうと、拓也さんが莉子ちゃんをお風呂に入れた。自宅のお風呂が狭く、174センチの拓也さんが体育座りをしないと入れないほどだからか、莉子ちゃんは広々とした温泉が好きだった。「莉子が(温泉の)湯船につかると『ふ~~っ』って言うんですよ。おっさんみたいで、またかわいくて。それが見たくて、僕、しょっちゅう連れて行ってたんですよ」。そんな思い出を語る拓也さんは、無邪気な笑顔だった。

松永拓也さんと温泉に入る莉子ちゃん(松永拓也さん提供)

◆「被告人質問よりつらい」けれど…

 今回の公判の意見陳述では、2人との思い出も語ることになる。拓也さんは、裁判官と飯塚被告に内容をしっかり伝えるために冷静であろうと努めるつもりだが、2人がいない法廷の場で幸せだったころの話をすれば、悲しみが襲ってくる可能性は高い。拓也さんにとっては「被告人質問よりもつらい」という。
 ただ、意見陳述に立つことについて「むなしいし、しんどいけど、一片の後悔もない。今後、生きていく上で絶対に後悔しない」と力を込める。2人の命を無駄にしないために、交通事故防止の活動でも裁判でも、できることは全部やると決めている。

池袋乗用車暴走事故 起訴状などによると、飯塚幸三被告は2019年4月19日正午すぎ、東京都豊島区東池袋4の都道で、ブレーキと間違えてアクセルを踏み続けて時速約96キロまで加速し、赤信号を無視して交差点に進入。横断歩道を自転車で渡っていた近くの松永真菜さん=当時(31)=と長女莉子ちゃん=当時(3つ)=をはねて死亡させたほか、通行人ら男女9人に重軽傷を負わせたとされる。

 ◇ ◇

◆これまでの刑事裁判の状況

検察側 「ブレーキやアクセルペダルの異常は確認されなかった」などと指摘し、誤ってアクセルを踏み続けたことが事故につながったと主張。
被告人・弁護側 「車のシステムに何らかの異常が発生し、暴走した」などして、無罪を主張。
4月の1度目の被告人質問 弁護人や検察官が飯塚幸三被告に質問をした。弁護側の質問では、飯塚被告が事故時の状況を説明。「アクセルペダルを踏んでいないのに加速した」と主張し、アクセルペダルを目で見たとして「床に張り付いて見えました」と述べた。検察側は「事故当時の記憶に関して、事実と違う点がある」と追及。アクセルペダルを見たという状況も細かく尋ね、「もう一つ動きをしないと見えないのではありませんか」と迫った。
6月の2度目の被告人質問 松永拓也さんら遺族や被害者の代理人が飯塚被告に質問した。松永さんは最初に、真菜さんや莉子ちゃんの名前を言えるかを尋ねたが、飯塚被告は莉子ちゃんの名前の漢字を答えられなかった。事故後の調査で車の異常が確認されていない点を追及されると、飯塚被告は「再起動すると元に戻って正常に機能することがある」などと主張した。無罪主張を続けている点については「心苦しいと思っていますが、私の記憶では踏み間違いはなかった。過失はない」と語った。

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