「介護ハラスメント」深刻被害 職員守るには早い情報共有 国が事例集 事業者に対策強化促す

2021年7月14日 07時52分
 介護の現場で働く職員が、利用者やその家族から暴言や性的な嫌がらせなどを受ける「介護ハラスメント」。被害が続くと、職員の離職にもつながりかねない。介護の担い手不足が深刻化する中、安心して働ける環境を整えようと、国は全ての介護事業者にハラスメント対策の強化を促している。 (佐橋大)
 「女性職員が入浴介助中、男性利用者から体を触られた」「利用者の家族から『帰れ』『触るな』と利用者へのサービスを拒否された」。三菱総合研究所(東京)が三月にまとめた「介護現場におけるハラスメント事例集」の一例だ。全十四の事例の発生の経緯やその後の対応なども紹介。厚生労働省がホームページで公開し、各事業所に活用を呼び掛けている。
 同研究所が二〇一九年、同省の委託を受け全国の介護職員約一万人に聞いた調査では、特別養護老人ホームで働く職員の70・7%が「利用者からハラスメントを受けた」と答えた。通所介護職員は45・6%、訪問介護職員は50・1%が受けた経験があると回答。各職場とも一割以上の職員が利用者の家族からもハラスメントを受けていた。
 ハラスメントで仕事を辞めたいと思ったことがある人は、どの職場も二〜四割程度に上った。訪問介護では、そのうちの一割強の人が実際に辞めていた。こうした状況を踏まえ、同省は四月から、介護事業者の「運営基準」にハラスメント対策を規定し、対処方針の明確化などを求めている。
 ただ、介護職員らの労働組合「UAゼンセン日本介護クラフトユニオン(NCCU)」(東京)などによると、介護現場では「ハラスメント」かどうか判断に迷うことも多い。利用者の中には認知症で脳の働きが低下し、大声で怒鳴ることで不安や不快の気持ちを伝える人もいる。また、要求が過剰かどうかも、職員によって受け止め方が違う。
 愛知県内で有料老人ホームなど十施設を運営するメグラス(名古屋市)は四月から、独自の「スタッフプロテクション制度」を導入した。利用者らの言動を「青(正当な指摘)」「黄(過剰な要望)」「赤(ハラスメント)」に振り分ける基準を策定。職員が気になった言動を社内連絡アプリ「LINEWORKS(ラインワークス)」で人事部門に報告すると、担当者四人が二十四時間以内にどの分類に当たるか判断する。
 その後、現場の関係職員らと情報を共有し、改めて事実確認をした上で対処法を検討。導入後の三カ月で「黄」「赤」が一件ずつあり、赤のケースでは利用者に退去を求めたという。
 ハラスメント防止のための周知、啓発を図ることも大切だ。同研究所の事例集では、自治体が利用者や家族にチラシなどでハラスメントの具体例と、これらの行為でサービスを利用できなくなる可能性を伝え、注意を喚起する取り組みも紹介している。
 NCCU副会長の村上久美子さんは「ハラスメント対策は、早い段階での情報共有がポイント」と指摘。少しでも早く組織で対応することで、職員の心の傷を抑えることができる。そのためには、日頃から話しやすい職場の雰囲気づくりが必要という。村上さんは「ハラスメント対策の義務化が取り組みの底上げにつながれば」と期待を寄せる。

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