<お父さんへ 父と娘の14000通>(1)ぼけ防止の強制メール

2021年7月15日 07時31分
 とかくギクシャクしがちな父と娘。お互い嫌いではないけど共通の話題もなくて…という人は多いはず。わが家もそうだったが、ひょんなことから父と毎日メールすることになり、気付けば二十年。これは、近況報告からどうでもいい話題まで一万四千通を超えるメールを交換した父と娘の軌跡です。 (宮崎美紀子)
 「お父さんへ」。この言葉を七千回以上、キーボードに打ってきた。二〇〇〇年十月から毎日メールを交換するのが私と父の日課。五十九歳だった父は後期高齢者に、三十一歳だった娘は中年になった。
 父は五十九歳の誕生日目前に「これからは自治会の会長をする」と宣言し、会社を早期退職した。自治会活動では、回覧板や会議の資料作りでパソコンが必要になる。もちろん二十年前にも会社にパソコンはあったが、そこは昭和生まれの男。部下に「資料作っといて」と言えば事足りたそうだ。だが素浪人となったからには、そうはいかない。
 一念発起、パソコンを始めることにした父。でも娘は疑っていた。なにしろ「前科」があるのだ。過去に会社のセカンドキャリア講習で購入したワープロには全く触れず、その後買った懐かしのブラウン管付きワープロもオブジェと化した。
 これは無理やりにでもパソコンに慣れさせなければいけない! カワイイ娘からのメールなら返事を書くだろう。そんな軽い気持ちで始めたメール交換。正直、こんなに続くとは思わなかった。父と母に改めて聞いてみると、私は「ぼけ防止のためにメールを送る」と言ったらしい。五十代相手に「ぼけ防止」は失礼だったな、と自分も五十代になった今は思う。
 記念すべき父からの初メールはたった一行。「パスワード変更は失敗しました」

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