【動画あり】藤井王位、逆転勝利の背景は… 立会人の広瀬章人八段が見た王位戦第2局

2021年7月15日 10時52分

終局直後、感想戦を始める両対局者と、それを見守る広瀬章人八段(後列左)=いずれも14日、北海道旭川市の花月会館で

 7月13、14日に北海道旭川市で指された、お~いお茶杯第62期王位戦7番勝負(東京新聞主催、伊藤園特別協賛)の第2局。藤井聡太王位(18)=棋聖=が苦しい将棋を辛抱し、豊島将之竜王(31)=叡王=に勝って1勝1敗のタイとした。鮮やかな逆転劇の裏では何が起きていたのか。現役のA級棋士、広瀬章人八段(34)が立会人として詰めていた現地控室の検討の模様をリポートする。

王位戦第2局の立会人を務めた広瀬章人八段

◆「1日目で既に…」傾く形勢

 「感触の良さそうな手。ほんの少し豊島さんがリードしたのでは」。1日目の夕方、豊島竜王の▲6五歩(41手目)を見て、広瀬八段が指摘した。2日制の対局の1日目で既に、形勢に差が出ているということは、大差になる可能性がある。それもトップ棋士の言葉なので重みが違う。どちらが勝つにせよ、熱戦を期待していた控室には暗雲が垂れ込めた。それを裏付けるように、藤井王位は少し苦しげな様子で長考に沈み、次の手を封じた。
 封じ手は△6五同角(42手目)。控室ではより積極的な△7六歩を検討していたが、藤井王位は成算がないと判断したようだ。広瀬八段は「やや妥協した一手。▲2六飛(49手目)と引いた局面は先手がうまく立ち回っている」と分析した。藤井王位も「シンプルに銀交換され、まとめ方が難しくなった」と局後に反省したように、先手が優位を拡大。残り時間の差も2時間以上に広がり、第1局に続き豊島竜王の会心譜になるかと思われた。

立会人の広瀬章人八段(左)から豊島将之竜王(手前右)に封じ手が示され、着手する藤井聡太王位(代表撮影)

 しかし藤井王位は決め手を与えない。△3五銀(50手目)から△3六歩(52手目)は「相手を楽にさせない曲線的な指し回し」と広瀬八段が評した手順。豊島竜王も局後に「けっこう模様が良かったと思ったが…。具体的な手が難しかった」と語ったように、すっきりとした手順がないことに戸惑っていたようだ。

◆豊島竜王の踏み込み、藤井王位の見切り

 局面が動いたのは2日目の夕方。△7六歩(62手目)に対し、豊島竜王は▲6六銀(63手目)から▲5五銀(65手目)と突進した。いきなりの激しい変化に、控室では驚きの声が上がる。18世名人の資格を持つ森内俊之九段(50)は「一気に斬り合いで勝ちに行った手。踏み込みでは負けないという豊島さんの強い意思を感じる。先手有利だと思うが、正しく指せないとひっくり返る」と評した。
 広瀬八段も「もう安全勝ちはできない。先手玉が大丈夫かどうか」と熱心に検討するが、なかなか結論は出ない。「どちらの勝ちですか?」との記者の質問には「強い方が勝ちます。激戦です」と応じた。
 藤井王位は駒損ながらも△8七飛成(72手目)と迫り、激しい攻め合いに突入した。ここで豊島竜王に痛恨の誤算があった。77手目で▲7五角と王手する予定だったが、その先の手順で、詰むと思っていた後手玉がギリギリ詰まないことが判明。代わりに▲5九玉と早逃げし、予定変更を余儀なくされた。「先手の攻めが決まりそうだったが、そうでないと見切ったのはさすが藤井王位」と、広瀬八段もうなる。

苦しい将棋をしのぎ、逆転勝ちを収めた藤井聡太王位(日本将棋連盟提供)

 それでもまだ難解な終盤戦が続いたが、藤井王位の指し手は正確だった。▲7五角(85手目)の王手に対する△5一玉(86手目)が絶妙のしのぎで、後手に1手の余裕ができた。広瀬八段は「やはりこういう手は逃しませんね。辛抱したかいがあったのでは」と、ついに藤井王位の逆転を示唆した。
 現地大盤解説を担当した副立会人の高見泰地七段(28)は、続く▲6四歩(87手目)に対しての△6四同歩(88手目)を「なかなか指せない手」と称賛した。▲6四同角右(89手目)とされ自玉が危なくなるようでも、角が2八の地点から動いたことで、△7七桂(90手目)が「詰めろ」(次に相手玉が詰む状態)になるという算段だ。この手で「はっきり駄目になった」と豊島竜王。△6九竜(92手目)から先手玉は詰み。長手数だが、藤井王位は読み切っていた。豊島竜王は何が悪かったかを模索するように宙を見上げ、やがて駒を投じた。

◆浮き彫りになった課題点

 2日間で17時間にわたる大熱戦を繰り広げた両対局者。序盤の約7時間は互角で、中盤以降の9時間以上は豊島竜王が優勢とみられる局面が続いた。藤井王位が逆転したのは最後の1時間に満たないのだから、勝負というものは恐ろしい。

終局後、記者の質問に対局を振り返る豊島将之竜王(日本将棋連盟提供)

 広瀬八段は第2局を「豊島竜王は序盤、藤井王位は終盤で、互いの持ち味を出したが、相手にプレッシャーをかけながらチャンスをうかがう藤井王位の指し回しが絶品だった」と総括。さらに、ここまで2戦を終えての状況についてこう語った。「藤井王位は第1局に続き、序中盤で豊島竜王にリードを奪われた点は課題だろう。その辺をどう修正してくるか。豊島竜王は、残り時間に差をつけて互角以上で終盤に持ち込むという理想的な展開だったが、それでも勝ち切れないのが藤井王位のすごみ。お互いに要注意なところが浮き彫りになり、シリーズ中盤戦に入ることになる」
 7月21、22日に神戸市で指される第3局は、シリーズ全体のゆくえを占う重要な一戦になりそうだ。 (樋口薫)

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