<社説>酒類提供問題 深刻な政権の機能不全

2021年7月16日 07時11分
 菅義偉首相が酒類提供問題をめぐる混乱について陳謝した。酒販売業者や金融機関への要求に法的問題があるのは明白で陳謝は当然だ。さらに一連の経緯を通じた政府の迷走ぶりは目を覆うレベルで国民の政権不信は極めて深刻だ。
 政府は酒の提供停止に応じない飲食店に対し金融機関を通じて働きかける方針を打ち出す一方、販売業者にも酒を卸さないよう通知を出していた。双方とも法的根拠に乏しいどころか独占禁止法など現行法に抵触する恐れが非常に強く撤回はむしろ遅きに失した。
 菅首相によると、関係閣僚の会合で事務方から説明があったが何ら議論はなかったという。つまり首相を含めた閣僚たちは官僚から提案説明を受けながら、問題点を指摘することなく素通りさせたことになる。
 閣議や関係閣僚会議は政策をめぐる政府の最高意思決定機関であり、問題点を検証する役割も担う。この場で異論さえ起きなかったのなら、政権の一部が機能不全を起こしていたことになり事態は深刻だ。首相自身の指導力にも強い疑問を抱かざるを得ない。
 一連の問題について麻生太郎財務相兼金融相は「普通に考えれば、おかしいと思わなきゃ」、梶山弘志経済産業相も「強い違和感を覚えていた」と発言した。だがいずれも問題表面化後の発言だ。疑問があれば事前に指摘する機会はあったはずだ。責任回避とも受け取れる姿勢は閣僚として見苦しくないか。
 酒類販売の許認可権限を持つ国税庁職員が今月上旬に宴会を開き、感染拡大を起こしたことも明るみに出た。あまりの自覚の欠如に言葉を失う。
 国会で閉会中審査が開かれ西村康稔経済再生担当相が批判の矢面に立つ。しかし問題の責任は西村氏だけでなく政府全体にある。
 東京商工リサーチの調査では、小売りを含む酒類販売業者の休廃業は過去最多を記録。非正規労働者が多く働く飲食店や取引業者の苦境ぶりは想像に難くない。
 政府は酒類販売業者への支援拡充を表明したが拙速感は否めない。制度設計を精査し実効性ある支援策を練り直すよう求めたい。
 コロナ禍に向き合う上で最も優先すべきは五輪ではなく、人々の命と暮らしである。政府はこの原則をすべての政策の基本であると再確認すべきだ。

関連キーワード

PR情報