愛と信頼が結ぶチーム 『犬と歩けばワンダフル密着!猟犬猟師の春夏秋冬』 ノンフィクション作家・北尾トロさん(63)

2021年7月18日 07時00分
 信州のベテラン猟師、船木孝美さんと猟犬が繰り広げる猟に立ち会い、緊迫感あふれる現場で両者が「愛と信頼」で結ばれた間柄にあることを活写した。「先が見えないノンフィクションの醍醐味(だいごみ)も存分に味わうことができました」と充実の表情で振り返る。
 自身も狩猟免許を持ち、空気銃での鳥撃ち経験はあるが、猟犬を使った獣猟は未知の世界。興味を抱いて二〇一八年から取材を始めた。イノシシなどの獲物の匂いを探り、気配を察知すると猛ダッシュする猟犬たち。獲物を追い詰めると、待ち構える船木さんが狙撃しやすい場所に誘導する。付近に獲物がいないと判断すれば最短距離で戻ってくる。嗅覚、聴覚、脚力、瞬時の判断力…。取材を重ねるにつれ「底知れない能力を持つ、すごい生き物に出会ってしまった」との思いがこみあげてきたと言う。
 現場には狩猟免許を持つカメラマン、大の犬好きの女性編集者も同行。チームワークで「船木チーム」の活躍ぶりを追跡した。猟犬に限りない愛情を注ぎ、その能力を最大限引き出すことに全身全霊を傾ける船木さん。「猟犬たちは、リーダーにほめられたい、リーダーが喜ぶ姿を見たい、との一心で山を駆け回っていることが、ひしひしと伝わってきました」
 紀州犬の血を引くオスと、コンビを組むメス。七十歳(取材開始当時)の船木さんは当初、この二頭を最後に現役引退の意向を明かしていたが翻意。一九年夏、二頭からメス犬(カエデとモミジ)が誕生した。
 外見、性格、長所も異なる二頭の子犬が、猟に挑む両親の姿を目の当たりにしながら、たくましく成長していく姿を温かなまなざしで描写。物語に確かな厚みを加えている。「日の暮れた山中で、船木さんとはぐれてしまった時、カエデとモミジが何度も後ろを振り返りながら先導してくれて…。その賢さと優しさに胸が熱くなりました」
 猟にはアクシデントもつきまとう。猟に出たまま、親犬が戻った後もいっこうに戻らないカエデ。最悪の事態も覚悟する船木さん。待ち受けていたのは「スローモーションビデオを見ているかのような感動的な光景」だった。
 本書には個性豊かな猟犬が何頭も登場。数々の興味深い現場写真で彩られている。わが家の飼い犬を見る目が変わる一冊になるかもしれない。 集英社・一七六〇円。
 (安田信博)

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