普通の人生が面白い ギャグ漫画「アフロ田中」20周年 のりつけ雅春さん(漫画家)

2021年7月17日 13時22分
 東京都足立区在住、田中広(34)。高校中退後、運送会社などを経て、現在はトンネル工事会社社員。漫画家の妻ナナコ(32)、長女エマ(2つ)と三人暮らし−。
 超人的な能力も宿敵との対決もない。平凡な男の日常を描いたギャグ漫画「アフロ田中」シリーズは、まもなく二十周年を迎える人気作だ。連載一年ごとに一つ年を重ねるのも私たちと同じ。なぜ、そんな普通の人生が面白いのか。「いや、普通の人生の方が面白いと思いますけどね」。作者のりつけ雅春さん(41)はさらりと言う。
 埼玉県内の自宅一階の仕事場はきれいに片付いていた。「取材、何時間でもいいですよ。いまプータローなんで」。シリーズ第六部の「結婚アフロ田中」が五月刊行の十巻で完結し、久々の休養期間だ。

妻ナナコ(左)の体調を気遣い、イクメンぶりを見せる田中。真の目標はセックスレス解消だ=のりつけ雅春『結婚アフロ田中』7巻(小学館)より

 「アフロ田中」のあらすじは、本人いわく「田中がただ生きている話」。天然パーマ以外は特徴のない田中。怠け者ながらも一応働き、同僚とはサーフィンや飲み会でけっこう楽しくやっている。日々の出来事から、なぜお金が必要なのか、性欲は何のためにあるのかと鋭い考察も見せる。
 当初は高校一年だった田中も、今や一児のパパ。長期連載で、現実と同じ時間が流れる漫画は珍しいが「狙ったというより、年を取らないとネタ切れするからです。成長すれば何かしら起きるし、新しいキャラも勝手に出てくる。人生ってそうじゃないですか」。
 例えば、第一部「高校アフロ田中」と第二部「中退−」で一緒だった地元の仲間たちが、第三部「上京−」では急に疎遠になる。たまに会えば一人は結婚が決まっていたりする。実人生でも体験する種類の驚きだ。東日本大震災の時に職場のトラックでがれき撤去のボランティアに行ったり、コロナ禍でオンライン飲み会を試したり、現実の出来事も自然に描かれる。
 「ほとんど自分の経験を描いているようなもの」。田中と同じく埼玉県加須市に生まれ、高校を中退。とび職、トラック運転手として働きながら漫画を描き、二〇〇一年末、「高校アフロ田中」で連載デビューした。「田中は七歳下なんです。自分の経験でも、思い出として笑い飛ばせるのでちょうどいいんです」
 特に、子育てのリアルな描写には自身の「育休」経験が重なる。一三年の妻の出産が、第四部「さすらい−」の完結と重なり、数カ月間、完全に仕事を休んだ。「両方の実家に行って子育ての人手は多かったので、僕自身は子どもをじっくり観察していました。母親はおなかの中から子どもに蹴られるけど、父親は実感がなかなか湧かない。この時期をゆっくり過ごせたのは貴重でした。育休は絶対に取った方がいい」
 ナナコの出産の痛みを視覚化した話や、エマの視点から予防接種を描いた話など、育児エピソードはネット上で何度も話題に。「妊娠も出産も事件ですから。人生で何か悩みがあったら、それは大事件なんです」。自身初の傑作選『子育てアフロ田中』も最新巻と同時刊行。読者はずっと男性中心だったが「女性ファンが急に増えた」という。
 平凡な人生を描くからこそ視点が大切なのか、最近は心理学や初期仏教の解説書をよく読むという。仕事場の壁には、極小のカレンダーが百年分も張ってあった。「人生が俯瞰(ふかん)できるじゃないですか」。なるほど、すでに半分弱が×印で埋まっている。では、田中の人生はいつまで続く?
 「描かせてもらえるならずっと続けられる気がします。僕が死んだら終わる、というのもいいですね」 (谷岡聖史)

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