平手打ち事件、仏の政治不信を象徴 来春の仏大統領選 選択肢乏しく広がる閉塞感

2021年7月17日 19時44分
マクロン仏大統領=AP

マクロン仏大統領=AP

 【パリ=谷悠己】フランス大統領選の日程が来年4月10日に1回目投票、24日決選投票と決まった。正式な出馬表明こそしていないものの準備を加速させているマクロン大統領だが、再選の道のりは容易ではない。先月の地域圏議会選挙での国政与党「共和国前進」の大敗と記録的な投票率の低さが裏付けた政治不信の象徴として、マクロン氏が市民に平手打ちされた事件の重みを指摘する声も上がっている。
 事件は先月上旬、マクロン氏が仏南部バランス郊外を視察中、住民と触れ合おうとした際に起きた。
 仏紙ルモンドによると、直後に拘束され禁錮4月の実刑判決を受けた男(28)は定職に就けず、困窮世帯手当を受けていた。公判で語った動機はこうだ。
 マクロン氏の到着直前、待ち構える住民の列から政権批判のシンボルとなった黄色いベストを掲げた市民数人が排除された。共感していた運動の声が踏みにじられたとの思いを抱いてると、マクロン氏が目の前に。「愛想の良い表情で、私に大統領選での投票を期待している」と感じ、衝動的に手を上げたという。
 「正当化はできないが、国民の間に浸透する政治への怒りと信頼感の欠如が象徴された行為だったと言える」。パリ政治学院のブルーノ・コトレス研究員はこう振り返った。
 「マクロン氏にまた平手打ち」。先月下旬の地域圏議会選後、仏メディアではこんな言葉が躍った。政党別得票率で共和国前進は5番手の約10%しか獲得できず、投票率は過去最低を大幅に更新する33・3%。マクロン氏にとっては自身のほおに受けた以上の痛手がある、という皮肉だ。
 共和国前進は既存政党との違いを強調するため、あえて地方組織を固めていない。だが、肝心のマクロン氏の人気は「成功者に優しく弱者に厳しい」と評される制度改革によって低迷。コトレス氏は「今回の選挙結果は、マクロン氏が築こうとした政治手法の失敗を意味している」と話す。
 一方、地域圏議会選でマクロン氏への批判票を集めるかと予想された極右政党「国民連合」は退潮した。大統領選を意識したマリーヌ・ルペン党首が極右的な主張を弱めたことで、かえって固定支持層が離れた可能性がある。
 それでも、今月上旬に仏紙フィガロなどが発表した大統領選の得票予想はマクロン氏が24~28%、ルペン氏が26%と、候補者が固まらない左右の既成政党陣営を引き離している。
 前回大統領選の決選投票と同様の「マクロン氏か極右か」の2択しかない閉塞感の中、平手打ちした男がネット上で称賛される事態も。歴史学者のニコラ・ルブール氏は仏公共ラジオに「知性が欠如した現代を象徴している。大統領選までに社会の空気が好転する要素は見いだしづらい」と嘆いた。

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