経済界「早く選択的夫婦別姓導入を」 大企業から中小企業まで署名の輪 改姓で弊害、経済成長阻む恐れも

2021年7月18日 06時00分
 夫婦がそれぞれ望む姓を使える選択的夫婦別姓制度を求める声が、経済界から相次ぎ上がっている。経営者ら19人が4月に始めた署名の呼びかけに対し7月10日現在、634人の経済人が賛同した。1000人を目標に署名を集め、政府に導入を申し入れる。政治問題への関与に慎重な経済界が強いメッセージを出す背景には、夫婦同姓の強制が企業や働く人の負担となり、経済の成長を阻むとの危機感がある。(坂田奈央、嶋村光希子)

ドワンゴの夏野剛社長=同社提供

◆非生産的な手続きに「不利益大きすぎる」

 「もはや夫婦同姓の強制は時代に合わない」。「ニコニコ動画」などを運営するドワンゴの夏野剛社長は先月、最高裁大法廷が夫婦別姓を認めない現行法を合憲と判断したことに対し、ツイッターでこう発信した。夏野氏は「選択的夫婦別姓の早期実現を求めるビジネスリーダー有志の会」の共同代表を務めている。
 本紙の取材に夏野氏は「(現行制度では)企業も個人も不利益が大きすぎる」と訴えた。代表取締役が改姓すれば、企業は登記事項の書き換えが必要。個人の改姓でも、学歴や研究業績など旧姓時の経歴と結び付けられず過小評価を受ける可能性がある。非生産的な手続きと負担の話は「枚挙にいとまがない」という。

リモート取材に応じるサイボウズの青野慶久社長

 共同代表の1人で、結婚時に妻の姓を選んだソフトウエア会社、サイボウズの青野慶久社長も「(社長として)契約書にサインするたび、旧姓を使えるかどうか法務部門に確認せねばならず、ハンコを常に2つ用意している」と明かした。

◆現場では負担増の弊害

 実際、企業の現場では「弊害」が生じている。東京都の元銀行員の女性(31)は企業の給与振り込み業務を担った際、改姓が要因のエラーが多発し、対応に追われた経験がある。主に結婚で姓が変わった女性が、口座名義変更の手続きや勤務先への届け出をしていなかったことが要因だった。

DeNAの南場智子会長

 一部の大手銀行を除き多くの金融機関は、旧姓での新規口座の開設や既設口座の使用継続に応じていない。対応に膨大なシステム改修費を要することなどが理由だ。不正防止のため、口座開設の身分照会は厳格にせざるを得ない。女性は「望まない人まで改姓し、負担を増やす制度はなくすべきだと感じた」と語った。

◆世界で日本だけ「多様な個性生かせる社会を」

 法務省によると、法律で夫婦同姓を義務付けるのは世界で日本だけ。夏野氏は4月、自民党内の推進派議員連盟の会合で「経済界で反対する人はいない。政治が遅れている」と批判。取材時も「経済界にとっても重要な課題といえる少子化は、晩婚化が理由の一つ。少しでも姓を変えることが影響しているのなら、対応すべきだ」と訴えていた。

大和証券グループ本社の田代桂子副社長=同社提供

 有志の会に参加する大和証券グループ本社の田代桂子副社長は「政府が別姓を認めれば、企業も対応せざるを得ない。コスト増の要因などと言っている場合ではない」と主張。署名リストには全国各地の中小企業経営者も名を連ね、大橋運輸(愛知県瀬戸市)の鍋嶋洋行社長(52)は「女性社員を中心に『選択できる方がいい』との声が多く上がり賛同した。女性の社会進出に伴って柔軟に変化を」と求めた。

大橋運輸の鍋嶋洋行社長=同社提供

 青野氏は「孤独な戦いと思っていたが、経済界は賛同してくれた」と驚き、「選択肢を増やすことが多様な個性を生かせる社会につながる」と強調した。

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