さよなら 歌う電車 京急♪ファン魅了23年 発車時の装置音「偶然の産物」歌い切った

2021年7月20日 07時13分

大勢の鉄道ファンに見送られ、京急品川駅を出発する「歌う電車」

 ファ・ソ・ラ・シ・ド・レ・ミ・ファ ソ〜と発車時に音階を奏でる京急電鉄の「歌う電車」が近く、引退する。歌い始めて二十三年。その独特なメロディーは多くの乗客や鉄道ファンを魅了し、いつしか「ドレミファインバータ」という愛称で呼ばれてきた。最後の一編成の引退で、国内から歌う電車は姿を消すことになる。
 それは、とても静かなイベントだった。十八日朝、京急品川駅を貸し切りの「歌う電車」が出発。約二百人の参加者は息を詰めて、床下から流れるメロディーに耳を傾けた。目的地の同社久里浜工場(神奈川県横須賀市)では車内での音と外からの音を聞き比べられるよう、何度も発車と停車を繰り返した。
 千葉県習志野市の高校生高橋勇人さん(15)は「いつも以上に音を満喫できて、いい時間でした」。弟の陸人さん(10)は「小さい頃から好きで、よく品川駅に録音しに行きました」と話した。
 京急沿線に住む品川区の会社員太田圭路さん(46)は、鉄道好きの長男・蓮ちゃん(6つ)と乗車。「最近は聞く機会が減りましたが、昔はいっぱい走っていて、それが普通でした」と引退を惜しんだ。

車体の下にあるドレミファインバータを収めた箱

 音階を奏でているのは、車体の下に取り付けられているドイツのシーメンス社製のインバーター。架線から車両に流れる電気を適切な電圧、周波数に制御する機械だ。
 京急は創立百周年の一九九八年にこのインバーターを導入。当時、性能もコストも国内メーカーより優れていたという。
 導入決定後、シーメンス社側から京急の周波数に合わせて調整すれば音階が流れると提案があり、京急側も「おもしろい」と採用。車両専門職として京急でメンテナンスに携わってきた車両課の秋本泰宏さん(36)は「京急の周波数に合わせたから今のメロディーが誕生した。偶然の産物です」と話す。

ドレミファインバータのメンテナンスをしてきた京急電鉄車両課の秋本泰宏さん=横浜市で

 ドレミファインバータを搭載した電車は九八年に十編成、二〇〇二年に九編成が導入され、毎日のように京急線を走り、沿線に「歌声」を響かせてきた。人気ロックバンド「くるり」もこの電車をモチーフにした曲を作り、「♪赤い電車は歌い出す」と歌った。京急ユーザーではなかった秋本さんは入社後に整備工場で初めて聞き、「なんでこんなメロディーが流れるんだと技術的な驚きとともに感動した」と振り返る。
 京急の名物電車だったが〇八年から少しずつ国産のインバーターに切り替えられた。高温多湿の日本の気候に合わなかったこと、故障した場合、シーメンス社のあるドイツに部品を送る必要があるなどメンテナンスに手間がかかることが大きな理由だった。
 最後の一編成となったドレミファインバータは〇三年デビューのベテラン。車体の下にあるインバーターを収めた箱は長年の走行で茶色に汚れ、どんなに洗っても落ちないという。ここ数年は故障も多く、秋本さんは「一番面倒を見たかな。もう走り切った、限界を迎えているんだと思います」といとおしそうに語った。
 ラストランの日は公表されていないが、歌い納めの日は近い。最後の一編成が引退すれば、「音を奏でる詳しい仕組みはわからないし、おそらく再現は不可能だろう」と秋本さん。「多くの人に愛された歌う電車は誇り。思い出として記憶に残り続けてほしい」と願った。
 文・西川正志、宮崎美紀子/写真・佐藤哲紀、西川正志
 ◆紙面へのご意見、ご要望は「t-hatsu@tokyo-np.co.jp」へ。

関連キーワード

PR情報

動画の新着

記事一覧