<ワールド経済ウオッチ>中国のデジタル教育拠点「ビッグデータバレー」 過疎地も良い教育を

2021年7月21日 06時00分

貴州省貴陽市で、ビッグデータを活用した技術やサービスが一堂に集まる「ビッグデータ産業博覧会」

 内陸の山間部にIT企業のデータセンターを次々と誘致し「中国のビッグデータバレー」と呼ばれる貴州省。かつては貧困が深刻な地域だったが、近年はデジタル都市として急成長。今後は教育のデジタル化をさらに進め、都市と地方の教育格差の縮小を狙う。半面、生徒の成績などあらゆる個人情報のデジタル化は、思想教育など監視の強化につながる懸念もくすぶる。(貴州省で、白山泉、写真も)

◆山間にIT企業次々 「5G」整備

 貴州省は山間部のため人や物の流れが乏しく、貧困が深刻な地域だった。地元政府などによると、2012年の「貧困人口」は全人口の4分の1に当たる約920万人。この状況を打破しようと14年以降、百度バイドゥ騰訊控股テンセント、米アップルなどIT企業のデータセンターを次々と誘致。15年に「ビッグデータ先導試験区」に認定されると、高速大容量の通信規格(5G)を全省的に整備し、医療や教育とビッグデータを核とした政策を進め、デジタル都市として域内総生産約10%の急成長を遂げた。

◆縄跳び回数 瞬時に

 同省貴陽市の中学校を訪れると、年に一度の体育の総合試験が行われていた。合図にあわせて8人の生徒が一斉に縄跳びを跳び始める。縄跳びの持ち手にはセンサーが組み込まれており、1分間に跳んだ回数が自動計算され、名簿順に会場の掲示板に表示された。
 「このデータは教育局の中央システムに直接送られ保管される。誰も書き換えることはできない」。同校の体育教諭王崑さん(47)は説明した。

貴陽市で、ICチップがくみ込まれた縄跳びを使って体育の試験をする生徒たち

 

ICチップがくみ込まれた縄跳びが計測した記録は直接データセンターに送られる

 

縄跳びを跳び終えると記録が自動的に表示される

◆公平性を担保 教育格差も解消

 貴陽市は昨年、体育の試験データ管理システムを2000万元(約3億4000万円)かけて市内10カ所の試験実施校に配置した。年に1回の試験のために多額のシステム費を投じる背景には、「体育はテストの点数をごまかしやすい」という中国独特の風習もある。
 人口が多く競争が激しい中国では、体育でのたった1点の不足や加点が、今後の進学や就職に大きな影響を与えうる。人の介入で間違いが起きることを防ぐためにも、「デジタル化によって公平性を担保している」のだという。
 同省の小中学校に英語学習アプリを提供する民間企業の幹部は「データは経済的に豊かな地域に偏る傾向がある」と指摘。貧しい地域でも完全なデータを収集できれば「教育格差の縮小に有効だ」と利点を語る。
 中学校の体育試験のシステムを開発した企業の班超はんちょう最高経営責任者(CEO)は「スポーツテストや学習データを収集し、学生の成績向上に役立てている」と強調した。遠隔授業のシステムや、教室内の様子を撮影できるカメラなども手掛けており、教員が足りない過疎地でも都市部と同水準の授業ができるようにする狙いがあるという。

◆プライバシー懸念の声も

 一方で、関係者は「政治の授業でつまらなそうにしている生徒の表情をカメラでチェックし、重点教育の対象にすることもできる」と話した。貴陽市に住むある女性は「何でもデータで管理されるようになり、プライバシーがなくなるようで気味が悪い」と明かす。

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