「五輪をやっている感じない」政府の「復興五輪」掛け声倒れ、ソフトボール会場の福島<ルポ コロナ禍のオリンピック>

2021年7月21日 20時23分

東京五輪の競技スタートとなるソフトボールの開幕戦「日本-オーストラリア」の試合が行われる福島県営あづま球場

 首都圏を中心に新型コロナの感染拡大が続く21日、東京五輪は福島県営あづま球場のソフトボール日本―オーストラリア戦を皮切りに競技が始まった。無観客の球場にはスピーカーから録音の「音声」が流れることも。試合に大勝した選手は「声援がないのは寂しい思い」と漏らした。この日、球場周辺でも東京電力福島第一原発事故の被害が甚大だった沿岸部でも、住民らは「復興五輪」が政府の掛け声倒れに終わったことに怒りや疑問を口にした。(原田遼、小野沢健太、片山夏子)

◆震災時は避難所だった

 同日午前9時、日本の上野由岐子投手の第1球がミットに収まり、「パーン」と乾いた音が鳴った。しかし拍手と歓声は起こらない。選手の掛け声とセミの鳴き声だけが球場に響いた。
 スタンドに座るのは、大会組織委員会の橋本聖子会長らわずかな関係者とメディア。ほとんどの会場が無観客開催となる史上初の五輪がスタートした。
 球場の外では大勢のボランティアや警備員が緊張した表情で行き交う。観客向けの売店とみられるテントにはカバーがかけられていた。
 球場のスピーカーからは人のざわめきのような音が試合中に流れた。国際オリンピック委員会(IOC)は、無観客となった会場では、過去の大会から収録した歓声を流す方針を示しており、その措置とみられる。
 同じあづま総合運動公園内には東日本大震災の際、避難所として使われた体育館がある。この日は消防や警察の待機所となっていた。消防車両の誘導をしていた福島市の40代女性は「浜通りは今も帰還困難区域が残っていて、閑散としている。五輪に反対する人の気持ちは分かる。今年は(静岡県の)熱海で災害もあったし、私もお金かけるところが違うんじゃないと思う」と声をひそめた。

◆「福島の農水産物の安全、アピールしてほしかった」

 広大な公園を抜けると、試合の音はなくなる。「五輪をやっている感じは全くないね。高校野球の時は歓声がここまで聞こえるけど」。公園のすぐ外で農作業をしていた橋本善次さん(65)は苦笑いをする。
 「コロナ禍で五輪を開催することが最優先になり、復興五輪はどこかに行ってしまった。福島の農産物、水産物の安全をアピールする大会にしてほしかった」
 さらに周囲を歩くと、「中止だ!東京五輪」というプラカードを掲げた3人に出くわした。公園内で抗議活動を試みたが、運営スタッフに「公園を貸し切っているからアピール行動はしないで」と追い出されたという。
 同県いわき市の斉藤春光さん(69)は500メートル先の球場を見ながら「福島第一原発事故の処理と東京五輪は似ている。安倍晋三前首相も菅義偉首相も発言に中身がなく、対応がころころ変わる」と批判した。
 球場に戻ると、日本の試合は終わっていた。好投した上野投手は「背中を押してもらえる声援がないのは寂しい思い」と複雑そうに語った。
▶次ページ「まずは外国の要人を福島第一原発に連れて現状を見せるのが筋」
前のページ

関連キーワード

PR情報