<社説>海の日に考える 私たちにできること

2021年7月22日 08時04分
 リヤカーを引きながら、ポイ捨てされたごみを集めて回る「リヤカーボランティア」=写真=は、豊橋中央高校(愛知県豊橋市)の“伝統行事”になりました。
 豊橋は530(ゴミゼロ)運動発祥のまち。一九七五年に始まり全国に広がった毎年五月三十日の一斉美化活動。その豊橋で「自分たちにできることを自分たちのやり方でやってみたい」と二〇〇四年、生徒会の発案で始まったユニークなボランティア活動です。
 自分の足で歩いて自分の手で拾う。リヤカーは「自発」と「自律」のシンボルというわけです。
 毎年夏休み。当初は三河湾一周延べ百八十キロを九日間で踏破しました。旧東海道を歩いたこともありました。しかし、おととしからは、プラスチックごみによる海洋汚染への問題意識から、渥美半島先端の西ノ浜に打ち寄せる漂着ごみに的を絞って活動しています。三河湾の入り口の海洋ごみがたまりやすいところです。

◆押し寄せる海のごみ

 昨年は、コロナ禍を考慮して日程を二日間に絞り、延べ百三十人が三キロにわたって浜辺に展開し、徹底清掃を試みました。
 かつては、名も知らぬ遠き島よりヤシの実を一つ運んだ海流に乗り、今は大量のごみが押し寄せます。よその国からもペットボトルや食料品のパッケージなどが流れて来ます。
 砂浜に埋まった漁網や釣り糸を引っ張り出すのは大変です。キャンプのあとの食べ残しや消し炭を埋めて帰る人もいます。紙おむつとか、何やらわけのわからない物が詰まったペットボトルが“発掘”されることもありました。
 「何でこんなことができるかなあ」。いら立ちと葛藤、時には怒りさえ覚えつつ、目の前のごみに向き合うことをやめません。
 生徒たちこそ、なぜごみに挑むのか。リヤカーボランティアの歴史の中で、生徒たちは自ら多くの気づきを得、多くのことを学んで、後輩たちに伝えています。
 昨年まで生徒会の顧問を務めた権田拓朗教諭(48)が言いました。
 「ごみを拾っているうちに、不意につぶやく生徒がいたりします。『先生、風ってこんなに涼しかったんだ』『イネの背丈が昨日と違う』…。電車やバスからは見えないものが見えてくるらしい」

◆やるっきゃないじゃん

 生徒たちは気付いています。例えば道路の脇で風に漂うレジ袋。今拾っておかないと、川に落ち、流されて海に出て、魚やウミガメのおなかに入って彼らを苦しめ、時には命を奪ってしまいます。太陽の光で分解されて微細な粒になり、やがては人の体や命をむしばむことになるかもしれないと。
 「西ノ浜に打ち寄せられた大量のごみの中には、自分自身が出したものが交ざっているかもしれません。ひとごとではなく自分ごと。あれは自分たちのごみ。だからやめられないんじゃないのかな」と権田さん。
 「もっとも一度リヤカーボランティアを経験すれば、生徒たちもわれわれも、ポイ捨てなどしなくなりますけどね」と、笑います。
 昨年の活動の話に戻りましょう。二日目の正午すぎ。リヤカーで一カ所に集めた計約二トンのごみを地元のごみ処理センターに引き取ってもらい、延べ四時間の作業日程を終えました。
 権田さんには、その時の光景が忘れられません。
 再びすっかりきれいになった砂浜にへたり込むようにして、生徒たちはようやく海を眺めます。
 知多半島先端の羽豆岬が遠くにかすみ、その隣には篠島、そして日間賀島。さらにその向こうには世界につながる太平洋。水平線には大小の船舶が港を目指して連なります。
 生徒の一人が言いました。
 「おれたちには、こんなに豊かな海があるんだなあ。やっぱやるっきゃないじゃん」と。
 自分たちの海だから、ごみを拾うことはやめられない。これも正解なのかもしれません。
 ♪片付くことを知らないこの部屋はなんだか/他の誰かの暮らしから借りてきたみたいだ…。Official髭男dism「パラボラ」。
 片付けても片付けても一年もしないうちにまたごみだらけになる海岸線。心折れそうにもなるけれど、豊橋中央高校のリヤカーボランティアは海の日のきょうから三日間の日程で、西ノ浜での徹底回収に三たび挑戦します。
 「私たちにできることは何か」と、ふるさとの海に今年も問いかけながら。

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