スポーツの持つ等身大の価値 五輪本来の光を探していきたい<担当記者の視点>

2021年7月23日 06時00分
第40回全日本実業団対抗女子駅伝の3区、トップで力走する積水化学の新谷仁美=2020年11月22日、仙台市宮城野区で

第40回全日本実業団対抗女子駅伝の3区、トップで力走する積水化学の新谷仁美=2020年11月22日、仙台市宮城野区で

 IOCと大会組織委員会、日本政府が罪深いのは、美辞麗句で五輪の矛盾を塗り固めようとしたことだ。「スポーツの力で世界を一つに」などと、ウイルス禍に苦しむ社会の実情と懸け離れた発信を続けた結果、「スポーツは特別扱い」という不信を招いた。
 「勇気と感動を届けたい」という選手たちの願いも、それが政治利用されれば、多くの国民にとって「別の地平から見た言葉」になる。アスリートの葛藤に触れず、言葉の一部を伝えるメディアの責任も痛感している。こうして国民とスポーツの分断は、かつてないほど深まった。
 そんな溝を、偽りのない本音で越えた選手がいる。陸上女子1万メートルで東京五輪に臨む新谷仁美(積水化学)。「陸上を続けるのはお金のため」と公言する彼女は以前、こんなことを言った。「スポーツで世界を救えたら、もうとっくに救えています。偉いわけじゃないんです、(競技で)結果を出したからといって」
 あまたある職業と同じく、スポーツ選手も一つの仕事。本来は特別扱いされることもなく、「勇気と感動」を届ける義務もない。あくまで社会を構成する一員であるという意思が、「同じ地平から見た言葉」として伝わってきた。
 裾野の広いスポーツ産業を支え、娯楽としてファンの心を潤し、運動習慣を促して健康増進に寄与する。そんなスポーツの等身大の価値を訴えないから、五輪主催者らの声は響かない。虚飾と強弁で汚された大会の中に、新谷が示した誠実さのような、五輪本来の光を探していきたい。 (佐藤航=体操、バドミントン、陸上担当)
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 東京五輪が23日夜、開幕する。コロナ禍で異例ずくめの大会。これまで選手を取材してきた運動部の記者が、今の思いや大会報道への意気込みをつづった。

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