9条の戦後史 加藤典洋著

2021年7月25日 07時00分

◆日米同盟の解消を提示
[評]木村草太(東京都立大教授)

 本書は、加藤典洋『9条入門』の続編。タイトルには「9条」とあるが、内容は憲法九条というより「日米関係」の戦後史だ。
 第Ⅰ部は、一九五〇年代を扱う。再軍備を回避するか、対米自立を見据えた再軍備重武装路線をとるか。対米依存が自明視されていなかった当時、これは真剣な選択肢だった。憲法九条改正論もその流れにあり、改憲論者は対米自立を訴えていた。
 第Ⅱ部は六〇〜八〇年代。親米・安保維持を前提に、再軍備を回避して防衛費を抑制しながら経済振興を実現する「吉田ドクトリン」が定着した。対米自立の主張は下火になり、再軍備・対外軍事活動も、対米関係というより、経済大国としての責任として提案されるようになっていった。
 第Ⅲ部は、九〇年代以降。冷戦終結後、アメリカから見て、ソ連に対する防波堤としての日本の価値は低下した。他方、日本からすれば、対米依存は動かしがたい前提だ。このため、後方支援や集団的自衛権など、アメリカの要求に際限なく従う他ない状態が生じている。
 加藤はこうした歴史を踏まえ、国連と集団安全保障の強化による日米同盟の解消という「対案」を提示する。このように書くと大胆過ぎて非現実的な印象も受けるが、加藤の論拠と構想は詳細だ。取り上げる参考文献の選択に疑問がないではないが、広い視野でさまざまな立場の政治家や有識者を取り上げ、誠実に分析を積み上げようとする姿勢は圧巻だ。日米関係の戦後史を理解する上で有意義な一冊だ。
 ただし、これを「9条の」戦後史として語る必要があっただろうか。日米関係論はあくまで日米関係論として語り、憲法九条については「自分の立場と矛盾するなら改正を、矛盾しないならそのままで」と述べた方が端的ではなかったか。無理に法解釈論に話を広げたため、「解釈合憲」という意味不明な概念が登場するなど、法解釈論としては議論に堪えない。法解釈論と政治・外交の評論では方法論が異なり、両者を区別して論じる必要性を改めて感じる。
(ちくま新書・1430円)
1948年生まれ。文芸評論家。著書『敗戦後論』など多数。2019年死去。

◆もう1冊

加藤典洋著『敗者の想像力』(集英社新書)

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