頭皮冷やし脱毛抑制 抗がん剤副作用に対策 装置を国内初承認

2020年1月7日 02時00分
 抗がん剤治療に伴うさまざまな副作用の中でも、頭髪の脱毛は最もつらいものの一つだ。特に女性にとって外見の変化は大きなストレスとなる。病に立ち向かう意欲さえ失いかねない。国内ではこれまで、ウイッグ(かつら)や帽子で頭部を隠すしか対処法がなかったが、昨年、抗がん剤の投与時に頭皮を冷やし、脱毛自体を抑制する装置が医療機器として初めて承認された。 (赤坂達也)
 都内の女性Aさん(45)は二〇一一年、左胸に二・五センチほどの乳がんが見つかり、国立がん研究センター中央病院(東京)で乳房の温存手術を受けた。次は代表的な抗がん剤治療であるAC療法。アドリアマイシンなど二種類の薬を三週間ごとに計四回点滴する。
 この治療には、吐き気や白血球減少、毛髪がほぼ全て抜けるという副作用がある。「鏡を見るたびに、がんである事実を突き付けられる。周囲にも知られてしまう」。不安が膨らんだ。
 そんな時、主治医の木下貴之・乳腺外科長(現・国立病院機構東京医療センター副院長)=写真=から、院内で「頭皮冷却法」の臨床研究を始めるという話を聞いた。Aさんは参加を希望した。
 中央病院が〇九年に実施した抗がん剤治療に伴う身体症状の苦痛度調査によると、女性では脱毛が一位で、「乳房切除」「吐き気」「全身の痛み」などを上回っている。
 多くの抗がん剤には脱毛が付きまとう。脱毛は、頭皮の「毛包」という器官にある毛母細胞が抗がん剤に攻撃されて生じる。しかし、頭皮を冷やすと毛細血管が収縮して血流量が減り、毛包に届く抗がん剤が減少する。毛母細胞自体の活性も低下して抗がん剤の影響を受けにくくなる。ここが頭皮冷却法のポイントだ。
 木下さんによると、頭皮冷却法は一九七三年に海外で効果が報告されて以降、研究が進んだ。氷を入れた袋や保冷剤入りのキャップ(帽子)などが試みられたが、現在は頭に装着したキャップ内に冷却液を循環させる装置が主流だという。
 手術から一カ月半、Aさんの抗がん剤治療が始まった。冷却装置は英国製。キャップをかぶり、点滴開始三十分前から点滴終了の二時間半後まで冷やし続けた。零下約四度の冷却液で頭皮表面を一九度に保つ。Aさんはかき氷を早食いした時のような頭痛と全身に広がる寒さに耐えた。投与のたびに冷却を繰り返した効果は明らかだった。頭頂部周辺に薄毛の領域があるが、そこさえ隠せば誰も気付かないほど髪は残った。
 二〇一五年からは、国内五施設で英国製冷却装置の治験を実施。頭皮冷却を受けた乳がん患者三十人中八人(26・7%)が「脱毛なし」か「50%未満の脱毛でかつらの必要なし」と判定された。
 結果を受けて国は乳がんを含む固形がん患者への装置使用を承認。今後は導入施設の増加が予想される。ただ医療保険は適用されないため、費用は各施設の判断で決められ、一回数万円程度になる見込みだ。
 木下さんは「脱毛は生命に関わらない副作用として軽視されてきた。患者さんのQOL(生活の質)向上のために普及させたい」と話している。

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