<カジュアル美術館>街 松本竣介 大川美術館

2021年7月25日 07時05分

1938年 油彩・板 131×163センチ

 薄塗りの青の中に、ぼんやりと白く浮かぶビル群。街路を行き交う人々も、おぼろげに影を漂わせている。夢の中に現れては消える面影のようだ。
 ピンクのワンピース姿のモダンガール、詰め襟の書生(?)、靴磨き職人の姿もある。戦前の銀座あたりの街角かなと想像したが、よく見ると、中央の女性は金髪のようだし、男性たちは彫りが深い顔立ち。パリの雑踏の風景にも見えてくる。
 特定の街の景色を描写するのではなく、街のさまざまなイメージの断片を組み合わせ、重ねる。松本竣介(一九一二〜四八年)が好んで選んだモンタージュと呼ばれる手法だ。明治末年に生まれた竣介は、ヨーロッパの新しい美術運動に共鳴しつつ、大正から昭和初期にかけて急速に近代化が進んだ都市と、そこで暮らす人々を描いた。

再現された松本竣介のアトリエ

 本作を生んだアトリエが、群馬県桐生市小曽根町の大川美術館常設展示フロアで再現された。十五畳のフローリングにイーゼルや高イスなどの画材、座卓や木箱が配され、まるでドラマのロケのセットのよう。これらは竣介が愛用した実物で、三六(昭和十一)年に現在の新宿区中井二丁目の自宅に開いたアトリエ「綜合工房」を、遺族の監修で復元した。三十六歳で亡くなるまでの十二年間、この場で創作した竣介の気配を感じながら作品を鑑賞できる。
 九百冊に及ぶ愛蔵書を収める本棚は圧巻。背表紙を見ると、ダビンチやピカソらの美術書はもちろん、宮沢賢治全集やゲーテ全集など東西の文学書がずらり。ニーチェやデカルトら哲学書もある。またアンティークな千両箱やつぼ、南国趣味の置物なども飾られている。小此木美代子学芸員は「知的好奇心が旺盛だったことが分かる。好きなものを近くに置いて、いつでも手に取れるようにしていたようだ」と話す。
 十三歳で聴力を失った竣介は、視覚から得られる知識を貪欲に吸収した。アイデアの源泉であるモノに囲まれながら、創作に没頭していたのだろう。
 収集趣味が端的に表れているのがスクラップブック。東京の市井の人の暮らしを特集する新聞連載や有名な建築物を紹介する絵はがきから、映画雑誌に載ったハリウッド女優の写真まで、切り抜きをテーマ別に集めて約三十冊。よほどのスクラップ魔だった。
 モンタージュの絵画と記事のスクラップ。イメージを切り貼りするという意味でどこか似ている。
◆みる 「街」と再現されたアトリエは大川美術館で展示中。9月20日まで、地元ゆかりの作家の作品を集めた企画展「桐生のアーティスト2021 Kiryu POP」を開催中。開館は午前10時から午後5時。月曜休館。入館料は常設展示・企画展示共通で一般1000円、高大生600円、小中生300円。
 文・栗原淳
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