柔道の阿部一二三、妹・詩がそろって金メダル 日本初のきょうだい同日五輪優勝

2021年7月25日 21時54分
 東京五輪柔道男子66キロ級で兄の阿部一二三(23)=パーク24=と女子52キロ級で妹の阿部詩(21)=日体大=がそろって金メダルを獲得した。日本オリンピック委員会(JOC)によると、兄妹による優勝は五輪で日本初の快挙。

◆詩の優勝に「すごい燃えた」

男子66キロ級で優勝し、古根川実コーチ(左)と抱き合う阿部一二三=いずれも日本武道館

 金メダルを決めても、表情を一切変えない。コロナ禍の五輪。さまざまな思いが込み上げてくる。男子66キロ級の阿部一は厳しい顔つきのままだった。「この様な状況で五輪が開催されて、たくさんの人のおかげでたどり着けた」
 妹の詩が優勝した瞬間をウオーミングアップ会場のモニターで確認した。「すごい燃えた。もう絶対やってやる」。重圧は全く感じず、闘志が湧いてきた。
 五輪で自らの柔道を体現した。「見ている人がワクワクする、いつ投げるんだという柔道をしたい」。前に出て攻める。ワンチャンスで一本を狙う。準決勝では相手を高々と持ち上げ、豪快な一本背負い。決勝では技ありを奪った後も攻めの姿勢を貫いた。
 ライバルの存在が心身を磨き上げた。2017、18年世界選手権の優勝後、丸山城志郎(ミキハウス)と熾烈(しれつ)な五輪代表争いを繰り広げた。「この苦しい時期を乗り越えたら、さらに強くなれると思った。丸山選手の存在は本当に大きかった」
 得意の担ぎ技だけでは通用しないことを悟った。この日も初戦、準々決勝と2試合連続で袖釣り込み腰のフェイントを入れてからの大外刈り。足技へのコンビネーションといった緻密さも加わった。
 日体大時代から付き人を務める片倉弘貴さんも昨年12月の丸山戦までの過程で「あの期間の練習がさらに強くさせた」と感じていた。阿部一は「一番は心。経験して気持ちが強くなった。丸山選手の分も背負って闘った」。柔道史に残る濃密な24分の激闘が、初の五輪でも生かされた。
 23歳の金メダリストは座礼をして畳を降りた。ようやく感情をあらわにし、「人生で最高の一日」と喜びに浸った。 (森合正範)

◆詩の柔道スタイルは「70%は兄の影響」

女子52キロ級で優勝し、喜ぶ阿部詩

 畳を何度もたたき、ガッツポーズを繰り返す。うれしさのあまり、泣き笑いで顔はくしゃくしゃ。体全体で感情を表現した。「初めてのような感覚が決勝が終わった後に舞い降りてきました」。阿部詩は女子52キロ級で日本史上初の金メダリストになった。
 成長の証しだった。2016年12月にシニアの国際大会初参戦以来、海外勢に敗れたのは19年11月の一度だけ。その相手が決勝のブシャールだった。当時は競った展開で延長になり、「何をしていいのか、パニックになった」
 だが、この日は延長になっても冷静に、粘り強く、勝機をうかがう。集中力の切れかかったブシャールを寝技に持ち込み、一本勝ち。「ライバルで尊敬する選手。最後の相手にふさわしい。勝ててよかった」。我慢して、確実に勝利をもぎ取る。心身の強さが際立つ闘い方だった。
 5歳から柔道を始めたが、幼少期はあまり好きではなかった。夢中になったきっかけは、兄の一二三が全国中学校大会を制したことだった。「私もお兄ちゃんのようになりたい」。しかし、なぜ勝てるのか、「恥ずかしいから」と直接聞くことはできなかった。練習や映像を見て盗む。まねる。「お兄ちゃんの決まった技を見て、練習で試して、自分風にアレンジした」。自らの柔道スタイルは「70%くらいは兄の影響」と話す。
 兄をほうふつとさせる豪快な投げ技。それに加え、この日2試合で勝利へと導いた堅実な寝技という武器もある。
 21歳の金メダリストは、試合後、一二三の決勝を会場の片隅からじっと見つめていた。勝利の瞬間、晴れ晴れとした笑顔で両手を上げ、兄よりも喜んでいた。 (森合正範)

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