新幹線物流 ぐんぐん加速 北海道から金沢から 朝採れ食材、その日のうちに東京へ

2021年7月27日 07時08分

新幹線でJR大宮駅に運ばれてきた長野県産の桃

 各地の朝採れの食材を、その日のうちに東京へ−。地上を走る乗り物では国内最速の新幹線を使い、地域の特産品を運ぶ新幹線輸送が広がっている。JR東日本は今春から東北や北陸の野菜、鮮魚などを東京駅に運び、スーパーや飲食店など駅ソトに届ける事業をスタート。常設ショップも誕生した。

新幹線で運ばれた朝採れの貝を手にする蟹喰楽舞の三戸聡人オーナー=新橋で

 「豊洲市場で仕入れるよりも新鮮ですよ」。北海道の食材を使ったメニューを提供する新橋の居酒屋蟹喰楽舞(かにくらぶ)のオーナー三戸聡人(あきひと)さん(54)は、ホッキ貝やツブ貝を見て、にこりと笑う。朝に北海道で水揚げされ、午後三時には店に到着。別の日には、鮮度が重要な刺し身用の生ホッケや、東京ではめったにお目にかかれないエイの肝も届いた。
 もともと蟹喰楽舞では、飛行機で北海道の食材を仕入れていたが、新型コロナの影響で減便。安定した仕入れができず、ほぼ休業状態だった。だが新幹線輸送が実現し、営業を再開。コロナ以前は悪天候で飛行機が飛ばず、急きょ店を閉める時もあったが、天候に左右されにくい新幹線なら、そんな心配もほとんどない。三戸さんは「速さも安定性も新幹線が一番」と太鼓判を押す。

蟹喰楽舞のセールスポイントはエイの肝(左上)など新鮮な海鮮物

 JR東が新幹線輸送に乗り出したきっかけは東日本大震災だった。二〇一一年五月、復興支援のため、被災地の食材を東京駅で販売するイベントを開催。福島県などからトラックで食材を運び込んだ。
 不定期でイベントを開く中、さらに魅力を高めるために着目したのが、鮮度。トラックは朝、現地を出発しても東京に着くのは夕方から夜で、その日のイベントには間に合わず、鮮度も落ちる。渋滞で遅れることもある。新鮮な食材を東京に届けるには新幹線の活用が必要だった。
 新幹線の「初荷」は一七年七月。車内販売の作業スペースに山形や長野の新鮮な食材を積み込んで東京駅に運び、駅ナカで販売するマルシェを開催。抜群の鮮度に客からは大好評だった。
 定期運行の新幹線に食材を載せるだけのシンプルな仕組みだが、課題もあった。荷物の積み降ろし時間がわずかしかないからだ。東京駅では、新幹線が折り返し運転するまで十二分しかない。その間に車内点検や清掃を終えなければならず、積み降ろしに使える時間は一〜二分。JR東は、清掃業者と清掃の時間や場所の調整を繰り返し、最終的には作業時間を五分間確保した。
 今年四月、JR東の新幹線輸送は次のステージに踏み出した。それが駅ナカから駅ソトへの拡大だ。ジェイアール東日本物流と協力し、ほぼ毎日、各地の新鮮な食材が東京駅を経由し、都内のスーパーや飲食店に届けられている。

大宮駅にオープンした長野県産の農産物などを販売する常設ショップ「信濃の風」

 六月にはJR大宮駅(さいたま市)の構内に長野県の朝採れの果物などを販売する初の常設ショップ「信濃の風」もオープン。スタッフは長野在住で、食材だけでなく、長野の魅力そのものを発信する。
 JR西日本やJR九州も新幹線輸送に乗り出している。JR東の担当者は「東京を中間点として、地方から地方へと食材を輸送するニーズもある」。遠く離れた地を超高速で結んできた新幹線。これからは、人だけではなくモノも運び、地方を身近に感じられる新しい使い方が加速していきそうだ。
 文・西川正志/写真・五十嵐文人、市川和宏
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