超絶技巧!フランスのリボン 明治から時を超え、谷中・のこぎり屋根から発見 産業遺産に

2021年7月28日 07時06分

精密な織りで、肖像やキリスト像も表現された=いずれも板橋区の東京家政大博物館で

 台東区谷中で発見された大量のリボンの見本帳がこの6月、産業遺産学会の「推薦産業遺産」に指定された。フランスから運んだ貴重な作品が多数含まれ、現在は板橋区の東京家政大学博物館に保存されている。百数十年の時を超え、驚くべき鮮やかさで超絶技巧を伝えている。
 見本帳は、明治時代から谷中で操業していた「千代田リボン製織所」のもの。のこぎり屋根の工場として知られていた。その建物が二〇一三年に解体された後、別棟の事務所にあった見本帳などが、経営者の親族から地元の「谷中のこ屋根会」に譲渡された。

リボンの見本帳が見つかった谷中ののこぎり屋根の工場跡(現存せず)

 木の棚に保管され、震災や戦災も免れ、原形を保っていた。空調管理が完備した受け入れ先を探し続けたところ、今春、服飾史を研究している東京家政大が引き受け、同大博物館に収蔵されることになった。
 全部で二十二冊。当時の経営者、渡辺四郎(一八八〇〜一九二一)がフランスに渡った時、リボンの本場である都市サンテティエンヌで入手したものや、谷中で生産した国産品の見本帳などがある。

肖像画のように用いられたと考えられる精細な織物

谷中の千代田リボンで織られたとみられる作品を集めた見本帳

 リボンは主に絹製。男性用帽子に始まり、広く装飾に使われるようになった。洋装化に伴い需要が増えていたが、国産品はなく、フランスからの技術導入が企てられた。
 人物、風景、楽譜など、現在コンピューターを利用しても制作が難しい精細な織物が目を引く。後に「写真織」と呼ばれるものも含まれ、写真術が一般的ではなく、カラー写真もない時代、肖像画や街の紹介に用いられたという。
 渡辺家は当時、日本有数の富豪一族で、四郎は元祖鉄道ファンとしても知られる。渡仏の前後に谷中のリボン工場を買収し、一九一〇年から経営にあたった。今年は死去百年の区切りの年となる。

渡辺四郎(谷中の「のこぎり屋根」より)

 産業遺産学会に所属する地元在住の権上(ごんじょう)かおるさんは「都会に工場があったのは、流行を敏感に取り入れる意味もあった。知られざる産業史を語り継ぐもの」と話す。
 東京家政大博物館の三友晶子(みともしょうこ)学芸員は「西洋のリボンと国産のリボン、両方あるのがポイント。谷中の工場はリボンの国産第一号でもあり、洋装化の過程を知るうえで興味深い。当時は高度な織物を見せられて、あまりのギャップに困惑したのでは。そこから徐々に技術を身につけていった人々の気概を感じます」と話している。
 量が多く、洋書類や記録も寄せられたため、詳細な研究はこれから。同大博物館では保存環境を整え、将来の展示公開をめざす、としている。

大量の見本帳を調べる三友晶子学芸員

 文と写真・吉田薫
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