<TOKYO2020→21>レーシングカーのノウハウでカヌー製作 御殿場「ムーンクラフト」 国産艇で世界に挑む

2021年7月28日 07時58分

開発したカヌーと由良拓也社長=御殿場市で

 東京五輪のカヌースラローム男子カヤックシングルに出場する足立和也選手(30)は、カヌーでは珍しい国産艇を愛用する。製作したのはレーシングカーの設計・開発で知られるムーンクラフト(御殿場市)。本場の欧州勢に対抗できるスピードを求め、二人三脚で開発と調整を重ねてきた。由良拓也社長(69)は「できることは全部やった」。本番は二十八日だ。(中平雄大)
 きっかけは二〇一六年末に足立選手のコーチから会社に届いた一通のメール。フォーミュラカーなどの車体設計で実績のある由良さんに、レース車と同じカーボン製のカヌー艇の開発を依頼する内容だった。
 由良さんは「世界で戦おうというのに生半可では受けられない」といったんは断った。自動車レースでその厳しさを知るだけに、素人同然の自分にカヌー艇を作れるとは思えなかった。

ムーンクラフトが開発した艇で練習する足立和也選手=山口県内で(同社提供)

 足立選手らは諦めず、その後も国際大会で好成績を挙げるたびに報告。一八年の暮れ、自力で集めた資金を示しながら、上を目指すには特注の艇が必要だと頼み込んだ。提示された資金では全く足りなかったが、根負けした由良さんは「一艇だけなら」と承諾した。
 譲り受けた欧州製の古い艇を切断して構造を調べ、三カ月ほどかけて作り上げた艇は、重量九キロ以下の条件をクリアできなかった。「これは使えない」。足立選手が申し訳なさそうに告げた言葉が、負けず嫌いのレース屋魂に火を付けた。
 「自分たちの得意な方法でやろう」。レース車のボディーと同じように、蜂の巣状の軽い芯材をカーボンで挟む構造にして二週間で二号艇を仕上げた。足立選手は直後の日本代表選考レースをこの艇で制した。
 由良さんはスポンサーの獲得にも協力し、開発費を工面。足立選手の要望に合わせ、艇体の厚みや先端の反り具合などミリ単位の調整を続けた。新型コロナウイルスの影響で五輪開催が一年延期となった後も改良を重ね、今月、十号艇を引き渡した。
 今では足立選手が「これがなければ戦えない」と絶大な信頼を寄せてくれるという。「何も分からずに車のボディーを何度も試作した若いころを思い出して新鮮だった」と由良さん。「負ければ当然悔しい」とレース屋の顔をのぞかせつつ、「悔いが残らないように思いっきりやってほしい」と願う。
<カヌースラローム> 全長250〜400メートルの激流のコースに設けられたゲートを番号順に通過しながらゴールまでのタイムを競う。両側に水かきが付いたパドルを使うカヤック、片側のみのカナディアンの2種目があり、五輪では男女の各シングルが行われる。
 足立和也選手は相模原市出身。アジア大会では2014年優勝、18年2位。日本選手権は5度優勝している。五輪は東京大会が初挑戦。男子カヤックシングルは28日に予選、30日に準決勝と決勝がある。

PR情報

静岡の新着

記事一覧