毛筆の29文字に込めた執念、来春定年の捜査一課刑事 八王子3人射殺から26年

2021年7月30日 06時00分

「どんな些細なことでもいいので情報提供に協力していただきたい」と呼び掛ける岩城警視=警視庁本部

 東京都八王子市のスーパー「ナンペイ」で1995年、アルバイトの女子高校生ら3人が射殺された事件は、未解決のまま30日で26年を迎える。専従班が捜査を続ける警視庁八王子署捜査本部の入り口には今も、事件名が書かれた“看板”が掲げられている。専従班を率いる捜査一課の岩城茂警視(59)が約4年前、思いを新たに筆でしたためたものだ。来春に定年退職が迫る岩城さん。現役刑事として残されたわずかな時間の中、決して諦めることなく犯人を追っている。(奥村圭吾)

◆捜査本部には被害者3人の遺影

 「大和田町スーパー事務所内けん銃使用強盗殺人事件特別捜査本部」。八王子署捜査本部の入り口の扉に岩城さんが墨書でしたためた看板が掲げられている。事件名を記した看板は刑事の世界の隠語で「戒名」と呼ばれ、解決への思いが込められている。岩城さんは以前の看板が古くなったことから「必ず犯人を」という一心で、この29文字を力強く書いた。
 被害者3人の遺影が並ぶ仏壇が置かれた捜査本部。延べ約21万人以上の捜査員が犯人を追ってきた。捜査員たちは入り口の看板を見て士気を高めてきた。
 岩城さんは2010年秋以降、通算約8年半の間、ナンペイ事件を担当してきた。情報提供者の記憶を呼び起こしてもらうために、何度も丹念に話を聞き、現場に残された足跡や銃弾の線条痕などから犯人を絞り込む捜査を指揮してきた。

◆減り続ける情報 「だからこそ研ぎ澄ます」

 時とともに事件の風化は避けられない。情報提供は近年右肩下がりで減り、この1年では28件だった。それでも岩城さんは「内容は絞られてきており、過去に寄せられた断片的な情報が裏付けられることもある」と悲観はない。「時間がたっているからこそ神経を研ぎ澄ませ、犯人につながる有力な情報が紛れていないか、徹底的に検証している」と強調する。
 現役の刑事として事件に向き合える時間は半年余になった。「いつも机にしまってあるんです」。岩城さんはそう言って直筆した看板の写真を取り出し、目を落とした。「事件が長期化しているのは被害者やご遺族に申し訳ない。だが、解決できるのはわれわれだけ。現役はもちろん、死ぬまで、絶対に諦められないです」

捜査本部の出入り口の扉に掛かる直筆の「戒名」の写真を手に、事件解決を誓う岩城警視=警視庁本部

◆事件名を紙に筆で書く理由

 警視庁幹部や捜査関係者によると、事件名を記した「戒名」は基本的に紙に毛筆で書かれ、警察署内の捜査拠点の出入り口に張られる。警視庁では戦後間もない頃から殺人事件などで掲げられていたとみられる。
 殺人事件などを取り扱う捜査一課では、捜査本部が置かれた署で書道にたけた事務職員が筆を執ることが多かったが、最近はパソコンを使って印字するケースが増えているという。
 一方、選挙違反を取り締まる捜査二課や、暴力団を捜査する組織犯罪対策四課の捜査本部では、繰り返し使用できるよう木やプラスチックの板に事件名が書かれることがある。
 殺人事件の事件名が主に紙で書かれている理由について、警視庁幹部は「捜査一課の事件では解決が長引かないように験を担ぎ、あえて比較的丈夫ではない紙を使っているのではないか」と明かす。

八王子スーパー強盗殺人事件 1995年7月30日午後9時15分ごろ、東京都八王子市大和田町4のスーパー「ナンペイ大和田店」の2階事務所で、いずれもアルバイトの高校2年矢吹恵さん=当時(17)、前田寛美さん=同(16)、パート従業員の稲垣則子さん=同(47)=の3人が頭を拳銃で撃たれて殺害された。事務所の金庫の扉にも弾痕があったが、中の現金約500万円は残されていた。2010年4月の刑事訴訟法改正で時効が撤廃され、捜査は続いている。警視庁は、犯人が履いていたとみられるスニーカーの3D画像や、現場付近の3D動画をホームページ上に掲載している。情報提供は八王子署捜査本部=電042(621)0110=へ。

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