説明なき「安全安心」には納得できない コロナ禍の五輪開催に街でネットで続く抗議

2021年7月30日 22時14分
<民なくして 2021年夏>

コロナ禍での五輪開催に抗議して駅頭に立ち続ける清水繁子さん

 東京五輪開幕後の朝、東京都世田谷区の駅頭に女性が立っていた。声を出さず、五輪中止を求める横断幕を静かに掲げる。地元に住む清水繁子さん(68)が4月から週2回、1人で続けている活動で「私も五輪は嫌いじゃない。でも、コロナ禍での開催はまっぴらごめんだ」と話す。

◆権力握ったらウソついていいの?

 感染拡大が収まらない中、根拠や基準を示さず政府や国際オリンピック委員会(IOC)が「安全・安心な大会」をうたっていることが納得できない。五輪を巡る菅義偉首相の発言からは「権力を握っていればウソをついてもいい、説明しなくてもいいと思っているのではないか」と感じる。「ここ数年、そんな政治がまかり通っている。それはおかしいと何度でも言わないと」。五輪が終わるまで立ち続けるつもりだ。
 安倍政権時代、議論や説明を尽くさないまま政策を押し進める政治が定着した。多くの憲法学者らが違憲性を指摘した安全保障関連法や、反対の民意が明確な沖縄県名護市辺野古へのこでの米軍新基地建設が象徴的だ。核となる支持層を固めて国政選挙に勝利することで、反対論を遠ざけた。安倍政権の継承を掲げた菅政権でも本質は変わらない。

◆開幕しても続く声「#東京五輪の即時中止を求めます」

 だが、それでも声を上げ続ける人たちはいる。五輪に対しても、開幕後も抗議の動きは活発だ。毎週、オンラインでトークイベントを開催する医師やジャーナリストの女性たちは27日も実施。ツイッターには「#東京五輪の即時中止を求めます」などのハッシュタグ(検索用の目印)が相次いで誕生している。首相官邸前や各競技場の周辺では、市民によるデモも続く。
 社会学者の上野千鶴子さん(73)は7月2日から、元外交官らに呼びかけてオンライン署名サイト「Change.org(チェンジ・ドット・オーグ)」で五輪中止を求める署名活動を始めた。
 五輪に固執する政府の姿は、勝ち目のない戦いに突き進んだ太平洋戦争時の日本と重なって見え、強い懸念を覚える。「後世に『なぜ五輪を止めなかったのか』と詰め寄られたら言い訳できない。中止を求める市民の意思と怒りを可視化したかった」。別のオンライン署名を行う元日弁連会長の宇都宮健児さん(74)も「あの戦争で降伏の決断が延び延びとなり、多くの命が失われた。今からでも中止すべきだ」と訴える。
 上野さんは五輪開幕後も署名活動を続けている。その理由を「お祭り騒ぎが始まったら国民は喜ぶだろうと政府が思っているとしたら、私たちはなめられている。経験の蓄積は、次のステップにつながる」と話す。秋までに衆院選が行われる。「市民の感覚と政治の大きすぎる乖離かいりを埋めるのは、有権者の責任です」(木谷孝洋)
   ◇
 論語に「民信たみしんなくば立たず」という格言がある。民衆の信頼がなければ、政治は成り立たないという孔子の教えだ。今の日本社会はどうか。「説明しない政治」にあきらめムードも漂っていないか。それでも声を上げ続ける人たちの動きを追いながら、衆院選を見据え、政治の在り方と、沈黙しないことの意義を探る。

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