コロナ感染拡大と五輪は本当に無関係なのか? 特例入国、穴だらけバブル、祝祭ムード、首相や都知事の楽観コメント…

2021年7月31日 06時00分

◆穴だらけの五輪バブル

 こうしたバブルについて立憲民主党の逢坂誠二コロナ対策本部長は「穴だらけだ」と厳しく批判する。
 同氏は、6月28日に菅義偉首相が羽田空港の水際対策を視察した後、現地を確認した。すると「荷物を受け取るターンテーブルは選手も一般客も一緒だった」。選手らが検疫から入国審査、税関と進む場所もテープで仕切られているだけで、「動線が分けられているわけではない」。選手村で毎日行われる抗原検査も実態は不明だ。逢坂氏は「もう手遅れかもしれない」と危機感を募らせている。
 こうした実態からすれば、五輪と感染拡大の直接的関係が全くないとは言い切れないのではないか。
 元厚生労働省医系技官で医師の木村盛世さんは「人が増えて動けば、感染が拡大するのは当たり前のこと。逆に、人の動きが止まれば、社会と経済が止まる」と指摘する。では、感染者の増加が止まらない現状でできることはないのか。木村さんは「こうなった以上、感染者の受け入れ態勢など、医療のキャパシティー(能力)を上げるしかない」と訴える。

◆「華やかな祝祭」が人の心を開放的に

 五輪が感染増を招いたと思わせる理由は他にもある。国民の心理に及ぼす影響だ。東京女子大の広瀬弘忠名誉教授(災害・リスク心理学)は「五輪は華やかな祝祭という側面があり、開催地の人たちの心を開放的にさせる。長らく外出を控えてきた人たちも我慢を緩め、出掛けてしまうこともあったはず」とみる。
 「開幕後は各競技の報道が増えた一方、コロナ関連のニュースは減った。メダルラッシュでその傾向がより強まった。結果的に人びとがコロナを意識する機会が以前より減り、自粛の意識も弱まることになった。心理面で『楽観バイアス』がかかった」

◆菅首相「人流減」、小池知事「在宅率増」…国民の心緩ませる

 そんな中だからこそ、危機感を高めるメッセージを出すべきなのに、菅首相は27日に「人流は減っている」と楽観論を振りまき、小池知事も29日に「(五輪の自宅観戦が増えたことで)ステイホーム(在宅)率が上がっている」と発言。IOCのマーク・アダムス広報部長は「(五輪は)パラレルワールドみたいなもの。われわれが東京で感染を広げていることはない」と述べた。
 広瀬氏は「五輪開催で国民の心が緩む中、それに拍車を掛けるような発言が相次いでいる。全く理解できない」と切り捨てる。

◆緊急事態宣言のたび人流抑制効果薄れ…

 そもそも一連の楽観論はうのみにできない。根拠が乏しいようにすら思える。
 携帯電話の位置情報から滞在人口を分析するソフトバンクの子会社「アグープ」のデータによれば、東京都に4回目の緊急事態宣言が出てから2週間ほどたった25日、JR東京駅の人出は最初の宣言前の昨年3月に比べて10%減にとどまった。1回目の宣言の昨年4月は65%減、2回目の今年1月は42%減、3回目の同5月は33%減なので、宣言を出すたびに人流抑制の効果が大きく薄れていることがよく表れている。

◆ブルーインパルス、ロードレース観衆で「密」

 これだけでも「人流は減っている」と楽観できないのは明らかだが、五輪開催によって「密」になるほどの人出も生じている。
 例えば開会式があった23日には、五輪の空気を味わおうとする人たちが国立競技場周辺に殺到したほか、上空のブルーインパルスの写真を撮る見物人の密集状態もできた。翌24日にも、自転車のロードレースの選手たちが駆け抜けた三鷹市内では、スマートフォンを向ける観衆が肩を寄せ合うほど集まった。
 「在宅率が高い」という小池氏の発言も怪しい。同氏は「テレビの視聴率が如実に示している」と述べており、「高い視聴率=高い在宅率」と言いたいようだが、ビデオリサーチ社が公表する関東地区の世帯視聴率を見ると、開会式こそ56・4%だったが、時折20%台を記録するも多くは10%台。「誰もがいつも自宅で五輪中継にかぶりつき」とは程遠い。

◆矛盾するメッセージやめ、国民の疑問に答えて

 政府・都などが「五輪ありき、五輪だけ特別扱い」という姿勢を見せてきた影響も見逃せない。元厚生労働官僚で神戸学院大の中野雅至教授(行政学)は「飲食店に対する締め付けや乏しい支援などで政府や都に不信が募っているのに、さらに矛盾を思わせるメッセージを出せば信頼感が失われる。国民に何か協力をお願いしようにも耳を貸してもらえなくなる」と話す。
 南部義典・元慶応大講師(政治学)は「結局のところ、菅氏や小池氏が楽観論を触れ回るのは自分自身に大丈夫と言い聞かせたいだけじゃないのか」とみる。
 必要なのは、そんなことではない。「今はどんな状況か、国民はどんな不安を抱いているか、きちんと直視すべきだ。その上で毎日、記者団のぶら下がり取材や会見に応じ、国民の疑問に答えながら国民へのお願いを伝えていく。こうした真摯な姿勢がない限り、国民の協力は得られないし、感染拡大は止められない」

デスクメモ どうみても影響が明らかな「Go Toトラベル」の際も、政府は感染拡大との関係を頑として認めなかった。五輪との因果関係も認めることはないだろう。そういう誰もが疑問に思う因果関係について、真正面から真摯に答えない姿勢を見聞きしたとき、誰がその言葉を信じるのか。(歩)

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