新・人間関係のルール 辛酸なめ子著

2021年8月1日 07時00分

◆「距離」から生まれる疑心暗鬼
[評]永江朗(ライター)

 世の中にはコミュニケーション術や交際術を教える本がごまんとある。しかし、人気コラムニストで漫画家による本書ほど役立つ本は珍しい。なにしろあいづちの打ち方に始まり、宇宙人との交流方法まで伝授してくれる。
 書かれていることは著者自身の体験。友人知人との飲み会だけでなく、セレブたちが集うパーティーや異業種交流会に参加したり、怪しげなセミナーに参加したり。喫茶店でも隣のテーブルの会話に聞き耳を立てる。ペンネームの通り失敗や苦労も多いが、そのつど教訓を得る。各項目の最後には漫画がついている。どこまで本気でどこからおちょくっているのか、判断に迷うときは苦笑するしかない。
 感心したのは「同窓会に挑む」という話。「臨む」の間違いではない。なぜならそこは虚勢の張り合いだから。自分の晴れ姿を見せなければと気合いが入る。しかし、その気合いが空回りして悲喜劇を生む。新調した靴の靴擦れが痛くて談笑どころじゃないとか、レンタルしたブランドバッグを汚してパニックとか、寝癖が直らないとか。
 何年も会っていなければ名前を忘れることもある。著者は卒業アルバムをコピーして札にした「同窓生カルタ」を作って練習したそうだ。
 かつて自分がどう思われていたのかという現実にも直面する。あるとき会場で所在なく立っていたら「また人間観察してるの?」と声をかけられ、<そんな感じ悪い人間に思われていたとは、と、ショックでした>と告白する。
 本書の元になったのはネットでのコラムで、連載期間は二〇一八年九月から二〇二〇年八月。つまり半分はコロナ禍の中で書かれた。コロナ禍が人間関係を大きく変えたことが本書からも読み取れる。
 パーティーだの飲み会だのが、大っぴらには開催されなくなった。しかしごく少人数でこっそり行われ、自分は招かれなかったと知ったときの残念な気持ち。コロナ禍が終息しても、かつてと同じ信頼感を持つことは難しいだろう。こりゃあ、宇宙人と交流したくなるのも無理はない。
(光文社新書・858円)
1974年生まれ。漫画家、コラムニスト。著書『女子校育ち』『無心セラピー』など。

◆もう1冊

鈴木涼美著『ニッポンのおじさん』(KADOKAWA)

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