男子金ゼロのロンドンから9年…日本柔道復活への道筋付けた井上康生監督、最後の花道 選手らの胴上げに涙

2021年7月31日 21時35分
 東京五輪の柔道は31日、混合団体を行って幕を閉じた。男子の井上康生監督は、任期の2期9年で低迷していた日本男子を復活へと導き、今大会は個人戦では5つの金メダルを獲得。自国開催の五輪を花道に、全日本柔道連盟の規定に基づいて退任する。

◆「こんな幸せな者はいない」

 混合団体の試合後、選手らの手で胴上げされた。そして、畳に顔を伏せて涙を流した。「こんな素晴らしい選手たちと戦わせてもらった。こんな幸せな者はいない」

混合団体決勝後、選手らに胴上げされる柔道男子の井上康生監督=いずれも日本武道館で

 2012年ロンドン五輪はコーチとして史上初の「男子金メダルなし」の屈辱を味わった。その後、監督の打診があり、「力を合わせれば必ず日本柔道界は復活できる」と覚悟を決める。男女を通じて最年少の34歳で就任した。
 理念は「最強かつ最高の選手育成と組織づくり」。まずは「日本代表とは」を考えさせ、誇りと責任を植え付けた。練習では、金メダル確実と言われた04年アテネ五輪でメダルを逃した自身の経験を踏まえ、選手の準備力を高めていった。「私は最悪のケースを突き詰めていなかった。試合でうまくいかなかったときの準備、想定外のときの修正力が大切になる」と説いた。
 柔道という閉鎖された社会からの自立を求め、代表合宿で茶道、カヌー、山登りといった他分野を体験させることも。「他の分野に足を運び、自主性とか、自立性に結びつくのではと考えた」

◆根性論からの脱却、亡き母の言葉を胸に

 組織では科学班の映像分析を重要視し、対策を練った。柔道界に根付く根性論から、緻密な作戦へ。五輪の試合前には「1%でも勝つ確率が上がるなら」と選手それぞれの気持ちが高まる「モチベーションビデオ」を作製した。

男女混合団体決勝 コーチ席から指示を出す柔道男子の井上康生監督

 悩んだら「初心」を思い出す。00年シドニー五輪前、亡くなった母かず子さんが井上監督に向けた最後の手紙に書いてあった言葉だ。「自分自身で何かをやった後で立ち返って、それでよかったのか、問いかける時間を設けるようにしている」
 情に厚く、負けた選手を励ます気遣いの監督でもあった。全体のレベルを底上げし、リオで男子全員メダル、東京では5人の金メダリストを生んだ。復活の道筋をつけた9年。混合団体の決勝でフランスに敗れた後、最後は穏やかな表情で選手をねぎらった。(森合正範)

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