<かながわ未来人>知識生かし、社会の役に ワクチン開発チーム率いる ナノ医療イノベーションセンター 副主幹研究員・内田智士(うちだ・さとし)さん(40)

2021年8月2日 07時23分
 川崎市臨海部にある「ナノ医療イノベーションセンター」の副主幹研究員として、昨年四月から新型コロナウイルスワクチン開発の研究チームを率いる。十年前からファイザー製ワクチンなどに用いられる「メッセンジャーRNA(mRNA)」の医療活用をテーマの一つとしてきた。
 東大医学部時代、片岡一則センター長に師事した縁で、六年前のセンター開設当初から所属。京都府立医大大学院准教授を務めながら、関西のテレビやユーチューブで「ワクチン専門家」として解説も担う多忙ぶりだ。コロナ禍で意識が変わった、という。「基礎研究に重きを置いてきたが、知識を伝え、実用化を目指すことで社会に役立てないかと強く思うようになった」
 mRNAワクチンは従来のワクチンと違い、ウイルス自体を投与しない。ウイルスの遺伝子情報が転写されたmRNAは、抗体をつくるタンパク質を生成後、速やかに消失するため「安全性は高い」と強調する。接種を怖がる人もいるが「新型コロナウイルスは変異してより強毒化している。接種する方が社会には有益と思う」と話し、どう伝えるか頭を悩ませている。
 東京都医学総合研究所とmRNAワクチンの共同開発をしている。研究所が主にウイルスを使う実験を行い、内田さんのチームはワクチン伝達や免疫の活性化の手法を担う。今のワクチンにはmRNAを包むカプセルに脂質が使われ、炎症などの副反応を起こす要因とみられている。これを「スマートナノマシン」というセンター独自の高分子カプセルに置き換えることで、よりワクチンの安全性を高められないか研究している。
 マウスを使った実験成果は出ていて、今後の課題は人への臨床試験や「億単位」という資金調達に移る。日本のワクチン開発は海外に出遅れてきたが、国の安全保障、外交に直結しているのは明白だ。「コロナよりも強毒な感染症が起きた時、海外頼みのワクチンで良いのか」と自国開発の必要性を感じている。
 今のワクチンは二回接種後、少なくとも半年は有効と評価される。内田さんが見据えるのはその先だ。「変異株の状況によって三回目を打つ可能性もある時に、開発中のワクチンが関われれば良い。それにエイズウイルス(HIV)や乳幼児の重症化が問題となっているRSウイルスなど、ワクチンのない感染症は他にたくさんある。出口につながる研究をしていきたい」(安藤恭子)
<ナノ医療イノベーションセンター> 川崎市産業振興財団の整備で、2015年4月に運営を開始。通称・iCONM(アイコン)。生命科学や環境分野の企業・研究所の集積を進める「キングスカイフロント」地区(川崎区殿町)の中核施設として、産官学連携による先端医療研究を行っている。

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