五輪競技会場「負の遺産」に? 重い維持費、赤字へ危機感

2021年8月3日 06時00分
 東京五輪・パラリンピックのために、恒久施設として建設したのは国立競技場など7会場で、総整備費は約2900億円に上る。しかし、都内会場は無観客となり晴れの舞台が消滅したうえ、大会後は多くの施設で収支に苦しむことに。負の遺産(レガシー)にならないためには市民の理解は不可欠。競技関係者は気をもんでいる。(原田遼、森合正範)

東京五輪・パラリンピック会場の国立競技場(右)。手前左は東京体育館=本社ヘリ「あさづる」から


◆新国立のトラックは撤去計画

 2日に陸上競技が行われた国立競技場。女子1500メートル予選で快走する日本の田中希実選手を後押しする声援はない。走り幅跳びの海外選手が跳躍前の手拍子を求めても、コーチ陣や関係者から静かにリズムが刻まれるだけ。スタンドは収容6万8000人を誇るだけに、他の会場よりも寂しさが増す。
 「『○○が9秒台をだしたトラック』とか『○○が金メダルをとった場所』とか、観客に多くの思い出を共有してほしかった」。日本陸上連盟幹部はそう嘆く。選手の汗が染み込んだトラックは大会後、撤去される危機にあるからだ。
 新国立は政府や東京都が1569億円で建て替え、維持費は年間24億円を見込む。政府は2017年、将来のサッカー・ワールドカップ誘致などを見据え、パラリンピック後にトラックを撤去して、8万人収容の球技専用競技場に改修する計画を決めた。

◆「聖地」にしたいが…無観客がっかり

 しかし、陸上界には国立を「聖地」にしたい思惑がある。大会後に運営権取得を目指す民間事業者からはコンサート利用を見据え「トラックがある方が機材が置きやすい」との声も上がり、スポーツ庁などは「収益を図れるかが最大の問題」としつつ、大会後に民間事業者とトラック存続を協議する方針に傾いた。
 五輪はこの流れに追い風となるはずだったが、感染拡大で無観客になってしまった。別の陸連幹部は「陸上独特の緊張感や一体感を味わう観客がいない。存続の機運は下がる」と悔しがった。
 その一方で、陸上のある代表コーチは冷めた目で語る。「陸上で観客が埋まるのは10年に1回程度だろう」。トラック存続を巡る混乱に「何を目指して新国立を作ったのか。後利用を考えず、五輪のことしか頭になかったのではないか」と批判した。

◆5会場で年間赤字10億円超

 都が整備した競泳やカヌーなど六会場も同様に収支の問題を抱える。年間収支の黒字が見込まれるのはバレーボール会場の有明アリーナだけで、他の5会場の年間の赤字総額は10億円を超える。
 78億円で建設したカヌー・スラロームセンター(江戸川区)は7月30日に熱戦が終わった。競技人口が少なく、今後は年間1億8600万円の赤字見通しだ。

カヌー・スラロームセンター=江戸川区で、本社ヘリ「あさづる」から

 女子カヤックシングルに出場した矢沢亜季選手は「テレビで五輪を見てカヌーを始めようという人が増えてくれれば、今後も活用できるのではないか」と期待する。ただ会場近くで散歩していた女性保育士(49)は「行政が施設を今後どう使うのかが見えてこない。ほとんど使われないで、施設がほこりをかぶってしまわないか」と心配した。

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