五輪「広島原爆の日」に黙とうしない理由は…「平和の祭典」看板倒れ

2021年8月3日 06時00分
 東京五輪開催中の「広島原爆の日」の6日に、選手や大会関係者へ一緒に黙とうするよう呼び掛けてほしい―。広島市などのこんな要請に、国際オリンピック委員会(IOC)が応じない方針を明らかにした。バッハ会長は先月、緊急事態宣言下の東京からわざわざ広島を訪問し、「平和の祭典」のアピールに力を入れていたはず。理由は何なのか。(石井紀代美)

7月16日、広島市の平和記念公園でバッハIOC会長が献じた「平和」の文字と五輪マークが記された花輪=AP

◆バッハ会長「閉会式でしのぶ」

 「残念としか言いようがありません」。広島市平和推進課の檜垣智弘課長は、IOCの方針に落胆する。
 毎年8月6日、広島市の平和記念公園で開かれる式典で、原爆が投下された午前8時15分に1分間の黙とうが行われる。市は、選手や大会関係者が選手村などそれぞれの場所で黙とうをささげ「心の中で式典に参加するよう呼び掛けていただくことはできないものでしょうか」と記したバッハ会長宛ての要請文を7月下旬に出していた。
 市によると、2日にバッハ会長から回答があった。明確な答えはなく、こう書かれていたという。
 「人は皆、亡くなった方々を追悼したいという思いでも一つになる。このため、閉会式で、そういった思いを巡らせる時間を設け、スタジアム内の人だけでなく、世界中の数十億人の人々すべてが今は亡き愛する人たちをしのぶ時間としたいと考えました」

◆元市長「市民感情を尊重すべきだ」

7月29日、競泳会場を訪れたIOCのバッハ会長

 閉会式への思いは伝わるが、原爆の日に黙とうしない理由ははっきりしない。IOCと組織委にも問い合わせたが、2日夕までに回答はなかった。
 選手への影響を心配しているのだろうか。そもそも6日朝に予定されている競技は少ないが、男子50キロ競歩を担当する日本陸連に聞くと、「競技を止めて黙とうするのは難しい」との答え。一方、女子ゴルフを担当する日本ゴルフ協会は「黙とうに関しては判断が及ばない」としたうえで、「広大なコースで一斉にプレーしている選手を止めるのは簡単ではないが、雷の発生などで止めることはある」と説明した。
 確かなのは6日が特別な日であること。前広島市長の秋葉忠利氏は「それぞれの国には、大きな悲劇が起きた記憶と結び付いて、市民が共有している日がある。日本ではその1つが8月6日。五輪を日本で開催するなら、市民感情を尊重すべきで、8日の閉会式で行うから6日を無視してもいいとはならない」と指摘する。

◆核保有国も参加 政治的配慮?

 秋葉氏は、原爆だけでなく戦争の全犠牲者を慰霊し、世界平和実現への決意を示すため、五輪関係者も一緒に黙とうすることを提案。ネットで署名を募り、1万6000を超える賛同が集まっている。
 「五輪を『平和の祭典』と掲げるなら、開催期間中に広島で行われる平和のイベントに呼応するのが自然な流れ。まして、バッハ会長は緊急事態宣言下に反対を押してまで広島に行ったのだから、五輪と広島がどうつながるのか、行動で示す必要がある」
 スポーツジャーナリストの谷口源太郎氏は、黙とうを拒む背景に政治的な要因があるとみる。核兵器廃絶が被爆地の願いだが、大会参加国には核保有国もあり、核兵器禁止条約への参加状況もそれぞれ異なる。被爆国の日本も条約を署名・批准していない。
 「IOCには、原爆被害について哀悼の意を表する共通認識がないし、バッハ会長の広島訪問は単なるパフォーマンスにすぎない。五輪は平和運動で他のスポーツ大会とは違うと強調されてきたが、今回の黙とう拒否は平和の推進とは関係ないイベントだということをよく表している」

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