皮膚の重症感染症が増加 傷口から細菌 脚切断・死亡例も 治療法確立へ研究

2021年8月3日 07時59分
 足の傷などから入り込んだ細菌が、皮下脂肪や筋肉を包む筋膜で増殖する重症感染症の報告が増えている。抗菌薬で回復しやすい蜂窩織炎(ほうかしきえん)と初期症状が似ているため、診断が遅れて脚の切断や死亡に至る例も。これらの識別に役立てようと、名古屋市立大病院皮膚科准教授の加藤裕史さん(42)=写真=は5月から、蜂窩織炎と診断された患者の原因菌や症状の特徴などを調べる研究を始めた。 (編集委員・安藤明夫)
 今春、蜂窩織炎と診断され、他病院に入院していた五十代の男性患者が同大病院に緊急搬送されてきた。脚が大きく腫れ、激しい痛みを訴える。加藤さんが一部を切開したところ、筋膜に壊死(えし)が広がっていた。壊死性筋膜炎と診断し、すぐに壊死した部分を切除、洗浄。処置が早かったおかげで、脚の切断は防ぐことができた。
 同病院で緊急手術を行った壊死性筋膜炎、ガス壊疽(えそ)などの症例を加藤さんが調べると、二〇一六年の十二件から一九年は十七件に。二〇年にはさらに増えて二十一件に達した。大半は別の病院で蜂窩織炎と診断され、転院してきた患者だった。他の大学病院でも同様の傾向が見られた。
 重症感染症と初期の症状が似た蜂窩織炎は患者数が多く、一般的だ。皮下脂肪に細菌が侵入し、すねなどが赤く腫れて痛んだり、熱が出たりする。主に黄色ブドウ球菌やレンサ球菌が原因で、痛くて歩けなくなる場合もあるが、通常は抗菌薬の点滴で軽快する。膿(うみ)がたまるといった重症例を除けば菌を特定する培養検査はせず、脚の腫れなどの症状や炎症反応などを確かめる血液検査で診断する。
 一方で、壊死性筋膜炎は細菌がより深くまで入り込み、筋膜を中心に、広範囲で急速に壊死が拡大。「人食いバクテリア」の異名を持つ劇症型溶血性レンサ球菌などさまざまな細菌が原因になる。ウェルシュ菌やレンサ球菌などによって引き起こされるガス壊疽は、壊死、感染した組織を全て切除することが必要だ。いずれも治療が遅れれば死に至るリスクがある。
 重症感染症の報告が増えた原因として加藤さんが考えるのは、抗菌薬が効かないメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)の広がりだ。医療現場で抗菌薬を多用したことで生まれ、院内感染を引き起こす細菌の代表格だが、それが市中どこにでもいる状況になっているのではないかという。市中型のMRSAの存在は、海外では二十年ほど前から報告され、日本でも十年ほど前から沖縄を中心に発見されてきたが、国内での研究はほとんどない。
 蜂窩織炎と診断された人を対象とする研究は、愛知県内の十二病院と共同で二年をかけて行う。実際には重症感染症の患者が含まれている可能性もある中で(1)皮膚の一部を採取して原因菌を特定(2)足の指の間の皮膚を採取して細菌の有無を調査−の二点に的を絞り、百五十例を検証する。(2)は水虫との関わりを確かめるのが目的だ。水虫による皮膚のバリアー機能低下が、感染のしやすさにつながるという見方を実証する。
 原因菌と症状の特徴、抗菌薬の効きやすさなどをデータとしてまとめることで「個々の患者に応じた治療法を確立する手掛かりになれば」と加藤さんは期待する。その上で、蜂窩織炎が疑われる場合は皮膚科、内科でも診るが、腫れや痛みが強い場合は、すぐに大学病院など専門医を受診することが大事と強調する。

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