<新型コロナ>個人事業主 安全網に穴 増えるウーバー配達員 労災対象外・所得補償も不十分

2020年5月10日 02時00分

4月にウーバーイーツの配達員男性が亡くなった交差点。手前から自転車で交差点に入り、左から来た軽自動車と衝突した=7日、東京都杉並区で

 新型コロナウイルスの感染拡大で飲食店への営業自粛要請が長期化する中、失業した飲食店員などが、ウーバーイーツの配達員に転職する例が増えている。ただウーバーの配達員など個人事業主に労災は適用されず、コロナ感染時も傷病手当に関しては支給の対象外だ。政府は個人事業主という働き方を推奨してきたが、安全網の不備が露呈している。 (池尾伸一、写真も)
 東京都杉並区の住宅地にある交差点。七日に訪ねると、その脇には花と缶コーヒーが置かれていた。自転車の大学生の男性(21)が先月六日、軽自動車と衝突し亡くなった。警察によると、ウーバーの配達員として飲食店に料理を取りにいく途中だった。
 外出できない人の利用増で契約店舗が昨年春の約八千五百店から三月末には二万店超に急増し、「エッセンシャル・ワーカー」(不可欠な労働者)になりつつあるウーバー配達員。一方で「新しく始めた人が増え、事故も多くなった」と都内で約三年、配達員を続ける鈴木堅登さんは言う。
 一見、手軽にできる配達員だが、リスクは大きい。ウーバーとは雇用関係がない個人事業主の立場で、事故で死傷しても労災保険による補償はないからだ。ウーバーは昨年秋、配達中の事故で死亡した人に一千万円の見舞金を払う独自の制度を設けたものの、けがの際の医療費は二十五万円が上限で、業務中の事故に伴う医療費を全額補償する労災保険に比べ手薄だ。
 ウーバーは「事故に遭われた配達の方のご冥福をお祈りする。再発防止に取り組む」とコメント。一方、ウーバーの配達員でつくる労働組合ウーバーイーツユニオン執行委員の土屋俊明さんは「ウーバーは安全指導や補償にもっと真剣に取り組むべきだ」と言う。
 事故時の補償に加え、個人事業主は新型コロナに感染した場合の安全網もない。都内の出版社で編集・校正の仕事をする五十代の女性は四月下旬、自宅でテレワーク中に発熱。「コロナかも」と感じ、不安と同時に生活が心配になった。女性は出版社の社員でなく個人事業主で、休むとすぐに収入がなくなるからだ。
 社員なら病休の間は企業の健康保険組合から賃金の三分の二の傷病手当が出る。しかし個人事業主らが加入する国民健康保険に手当はなく、「収入が途絶えるのは不安」と女性は言う。ウーバーはコロナに感染した配達員に最大約二万八千円を支給すると発表したが、二週間休んでも一日二千円しか出ない計算だ。
 個人事業主は政府の今回の緊急対策の対象からも抜け落ちた。厚生労働省は同じ国民健康保険の加入者でも、パートやアルバイトが感染した場合は国の負担で傷病手当を出すことにしたが、個人事業主は対象外だ。東京大の水町勇一郎教授は「同じように保険に加入し同じ保険料を払っているのに、給付で区別するのはおかしい」と指摘する。
 個人事業主の問題に詳しい川上資人(よしひと)弁護士は「個人事業主の多くは労働者と同様、企業の指揮命令下にあるのに安全網がないのは問題。制度の整備を急ぐべきだ」と訴える。

◆個人事業主保護策遅れ鮮明 水町勇一郎・東大教授が指摘

 新型コロナウイルスの感染が拡大する中、個人事業主(フリーランス)を守る安全網の乏しさが浮き彫りになっている。労働法を専門にする東京大の水町勇一郎教授に対策を聞いた。 (池尾伸一、オンラインでのインタビュー)
 仕事を失ったり、感染リスクにおびえたりしている個人事業主が増えている。
 「個人事業主といっても、実際は企業の指揮命令下で労働者同様の働き方をしている人もいれば、専門技能を生かし、独立しリスクも負っている自営業者に近い人もいる。前者のような人たちは本来は労働者同様、広く労災や失業保険でカバーされるべきだ。法律の適用基準がわかりにくくなっている問題が大きい」
 「自営業者のような人についても(フランスなど)海外では、失業保険の対象にするなど安全網の拡充が進められているが、日本では議論が進んでいない。雇用された労働者か否かで、安全網の有無が二分されてしまっており、個人で業務委託を受けて働く中間的な働き手が増えているのに、制度が追いついていない。コロナ感染拡大でその問題点が顕在化している」
 安全網の構築が急務か。
 「デジタル化の進展で(ウーバーやアマゾンなど)消費者と直接つながるプラットフォーム企業(の活動)が盛んになり、そこを基盤に働くフリーランスが増えている。コロナの感染拡大で多くの人がテレワークを経験し、企業も働く側も会社にいなくても働けることが分かってきた。時間や場所に縛られない(個人事業主などの)働き方は勢いを増すだろう。どうケアするかが世界共通の課題だ」
 どんな制度が必要か。
 「一つは労災補償。フリーランスにも、けがや病気への対応が必要だというのが世界の共通認識だ。それから仕事を失った場合の生活保障としての失業保険。技術変化に対応する能力を身に付ける教育訓練も必要だ。労働組合に関しては二〇一一年に個人事業主も労組を結成できる判決が出たが、それ以外は日本では十分に整備されていない」
 「これらの安全網を実態に合わせて適用する制度をつくっておけば、今回のような(個人事業主が失業や病気などに直面する)事態でも対応できる。リーマン・ショック後、非正規労働者への雇用保険の拡充や求職者の就職支援など一定の対応が図られたが、個人事業主への対応は不十分なままだ。当面は予算措置などで緊急対応するしかないが基盤となる制度の検討も必要だ」
<みずまち・ゆういちろう> 東京大社会科学研究所教授。1967年生まれ。東大法学部卒。パリ西大客員教授などを歴任。厚生労働省の「雇用類似の働き方に係る論点整理等に関する検討会」委員。
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