コロナ禍で追い詰められUber配達員に…若手監督が自撮りで実態伝えるドキュメンタリー映画「東京自転車節」

2021年8月7日 06時00分

コロナ禍で街にウーバー配達員が増えた=映画「東京自転車節」より ©水口屋フィルム/ノンデライコ

 新型コロナウイルス禍で収入がゼロに。でも地元・山梨県に仕事はない。大学時代の奨学金550万円の返済も迫る―。追い詰められた映画監督の青柳拓さん(28)が選んだのは、上京して自転車配達で稼ぐことだった。青柳さんは昨春の緊急事態宣言下の東京で自らが働く姿を自撮りし、ドキュメンタリー映画「東京自転車節」として7月に公開。若手監督は自転車配達の働き方に何を感じたのか。 (岸本拓也)

◆「ヒーロー」と思いきや…実際は「ロボット」

スマホアプリの指示に従って自転車で配達する青柳拓さん=映画「東京自転車節」より ©水口屋フィルム/ノンデライコ

 「配達員は人と人をつなぐヒーローみたいな存在と思っていたけど、全然違った」。青柳さんは取材にそう苦笑した。
 青柳さんが宅配代行サービス「ウーバーイーツ」の配達員を始めたのがコロナ禍の昨年4月。大学で映画制作を学び、卒業後は山梨県の実家で映像制作に取り組む傍ら、運転代行のアルバイトをしていた。しかし、昨年三月、コロナ禍で運転代行や映像の仕事がなくなり、収入が途絶えた。困っていると、知人からウーバー配達の仕事を紹介された。「配達で稼ぎながら、誰もいない東京を撮ったら面白そう」という思いもあり、スマホとハンディカメラを引っさげて上京。祖母の手作りマスクを着け、知人から借りた自転車で人波が消えた東京の街を走った。
 ウーバーイーツはスマートフォンのアプリ上で飲食店と客、配達員を仲介するサービス。配達員はアプリ経由で配達依頼を受け、店から客へと食事を運ぶことで収入を得る。日本では2016年に始まった。コロナ禍による外出自粛で需要が高まり、配達員の数も急増した。
 コロナ禍で外出できない人のために食事を届ける「尊い仕事」のはずが、実際は玄関先などに料理を置くよう指示される「置き配」が大半。「感染予防で仕方ない面はあるが、自分が誰に届けたか分からず、むなしい気持ちになった。人と人のつながりが断たれ、まるでロボットのように働いていた」と青柳さん。

夜のマンションで「置き配」をする青柳さん=映画「東京自転車節」より ©水口屋フィルム/ノンデライコ

 収入面も厳しかった。配達初日、10時間近く働いて得たのは約7600円。その後はコツをつかみ、1日1万円程度は稼げるようになったが、「それでも時給にすると1500円くらい。好きな時間に働けることは魅力だが、お金はたまらず、この仕事では、奨学金はとても返済できないと思った」という。

◆運営側の手のひらで頑張らされる配達員

 稼ぐチャンスがないわけではない。一定期間に数多くの配達をこなすなどの要件を満たせば成功報酬が得られる「クエスト」という仕組みがある。映画でも3日間で70件もの配達に挑戦し、必死の形相で自転車をこぐ姿が描かれる。
 青柳さんは「過酷だが、成功すると達成感がある」と話す一方、「システムの手のひらで頑張らされる仕組み。『1件でも多く』と焦らされ、事故の危険も招いている」と指摘する。

夜の新宿で配達する青柳拓さん=映画「東京自転車節」より ©水口屋フィルム/ノンデライコ

 配達員は個人事業主のため、就業に必要なものは自己負担。青柳さんも配達用バッグのほか、配達中に壊れた自転車とスマホの修理代に2万円以上がかかった。9月から、配達中にけがをした際に補償を受けられる労災保険に特別加入できるようになるが、保険料は全額自腹だ。
 今も映画の仕事の空き時間に配達する青柳さん。「ウーバー側は、配達員を『パートナー』と呼ぶなら、安全に対する保険料をいくらか負担してもいいのでは。配達員を使い捨てるようなやり方ではなく、互いに信頼を築ける関係になるのが理想だ」と語った。
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 コロナ禍の東京でのウーバー配達を軸に、その働き方への葛藤や喜び、街で出会った人々との交流が描かれる「東京自転車節」は、東京都中野区のミニシアター「ポレポレ東中野」で20日まで公開中。全国でも順次公開されている。上映の詳細は公式サイトで確認できる。青柳さんは「映画を楽しみながら、配達員の実情に思いを寄せてもらえたらうれしい」と話す。

自転車配達員としてコロナ禍の東京を撮影した青柳拓監督=7月22日、東京都中野区で(岸本拓也撮影)

あおやぎ・たく 1993年、山梨県市川三郷町生まれ。日本映画大学卒。卒業制作の監督作品『ひいくんのあるく町』が2017年に全国公開された。ほかに、短編「井戸ヲ、ホル」などを監督。

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